■腰方形筋
解剖学的に腰方形筋は後腹壁の筋と考えられます。腰方形筋は下方では腸腰靭帯と腸骨稜に、上方では第12肋骨と腰椎1~4番の頑丈な横突起の先端に付着します。この筋の厚さが図からわかると思います。
両側性に収縮すれば、腰方形筋は腰部の伸筋です。その作用は筋の力線が腰椎3番を通る内外側軸より約3.5cm後方を通過することによります。作用は、腰部の伸展と、腰仙移行部を含む腰椎の垂直方向の安定化です。
一側性に収縮すれば、腰方形筋は腰部の側屈筋としてかなり強力なてこ作用をもちます。しかし、腰方形筋の体軸回旋作用は最小です。作用は、腰部の側屈と、片側骨盤の挙上(ヒップハイキング)です。
歩行における役割を記述する際に、腰方形筋は「ヒップハイカー」と呼ばれます。一側の骨盤を挙上する(引き上げる)ことによって、腰方形筋は遊脚期中に、足部を地面から離すために下肢を持ち上げます。
腸腰筋(大腰筋+小腰筋+腸骨筋) |
■腰浅部での大腰筋の機能
大腰筋は腰椎側屈のてこ作用を示します。体軸回旋のてこ作用はわずかです。大腰筋の屈筋と伸筋としての能力は腰仙部の場所によって異なります。腰椎5番~仙椎1番移行部をまたいで大腰筋は約2cmの屈曲モーメントアームをもちます。そのため大腰筋は仙骨に対する腰椎下端の効果的屈筋です。しかしながら、大腰筋の力線は、腰椎1番に向けて上にいくほど、徐々にわずかに後方へ偏位し、多数の内外側軸を通るか、すぐのその後方を通ります。この筋の位置によって屈曲・伸展能力は減少するか消失します。そのため、大腰筋は腰部にとって有力な屈筋でも伸筋でもなく、むしろ強力な垂直安定装置(体軸骨格の自然な生理的彎曲を維持しながら、ほぼ垂直位で、体軸骨格を安定化させる筋機能)です。腰部に効果的なてこ作用がないので、大腰筋が前彎の程度に直接影響を及ぼす役割は最小限ですみます。しかし、股関節屈筋として、腸腰筋は、股関節上で骨盤を前傾させることによって、間接的に腰椎の前彎姿勢を増強します。
腰方形筋と大腰筋は腰椎の両側にほぼ垂直に走行します。このため両筋の強力な両側性収縮によって、腰椎5番~仙椎1番移行部を含めた腰椎全体にすぐれた垂直安定性がもたらされます。腰方形筋と大腰筋の制御およびコンディションを増進するエクササイズは腰部不安定に起因する疼痛患者に有益です。
※参考文献「筋骨格のキネシオロジー 原著第2版 医歯薬出版株式会社」