胸椎の回旋と内腹斜筋・外腹斜筋 |
胸腰筋膜・腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋 |
胸椎の回旋と内腹斜筋・外腹斜筋 |
胸腰筋膜・腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋 |
■腰方形筋
解剖学的に腰方形筋は後腹壁の筋と考えられます。腰方形筋は下方では腸腰靭帯と腸骨稜に、上方では第12肋骨と腰椎1~4番の頑丈な横突起の先端に付着します。この筋の厚さが図からわかると思います。
両側性に収縮すれば、腰方形筋は腰部の伸筋です。その作用は筋の力線が腰椎3番を通る内外側軸より約3.5cm後方を通過することによります。作用は、腰部の伸展と、腰仙移行部を含む腰椎の垂直方向の安定化です。
一側性に収縮すれば、腰方形筋は腰部の側屈筋としてかなり強力なてこ作用をもちます。しかし、腰方形筋の体軸回旋作用は最小です。作用は、腰部の側屈と、片側骨盤の挙上(ヒップハイキング)です。
歩行における役割を記述する際に、腰方形筋は「ヒップハイカー」と呼ばれます。一側の骨盤を挙上する(引き上げる)ことによって、腰方形筋は遊脚期中に、足部を地面から離すために下肢を持ち上げます。
腸腰筋(大腰筋+小腰筋+腸骨筋) |
■腰浅部での大腰筋の機能
大腰筋は腰椎側屈のてこ作用を示します。体軸回旋のてこ作用はわずかです。大腰筋の屈筋と伸筋としての能力は腰仙部の場所によって異なります。腰椎5番~仙椎1番移行部をまたいで大腰筋は約2cmの屈曲モーメントアームをもちます。そのため大腰筋は仙骨に対する腰椎下端の効果的屈筋です。しかしながら、大腰筋の力線は、腰椎1番に向けて上にいくほど、徐々にわずかに後方へ偏位し、多数の内外側軸を通るか、すぐのその後方を通ります。この筋の位置によって屈曲・伸展能力は減少するか消失します。そのため、大腰筋は腰部にとって有力な屈筋でも伸筋でもなく、むしろ強力な垂直安定装置(体軸骨格の自然な生理的彎曲を維持しながら、ほぼ垂直位で、体軸骨格を安定化させる筋機能)です。腰部に効果的なてこ作用がないので、大腰筋が前彎の程度に直接影響を及ぼす役割は最小限ですみます。しかし、股関節屈筋として、腸腰筋は、股関節上で骨盤を前傾させることによって、間接的に腰椎の前彎姿勢を増強します。
腰方形筋と大腰筋は腰椎の両側にほぼ垂直に走行します。このため両筋の強力な両側性収縮によって、腰椎5番~仙椎1番移行部を含めた腰椎全体にすぐれた垂直安定性がもたらされます。腰方形筋と大腰筋の制御およびコンディションを増進するエクササイズは腰部不安定に起因する疼痛患者に有益です。
※参考文献「筋骨格のキネシオロジー 原著第2版 医歯薬出版株式会社」
片側の腸肋筋が収縮すると、脊柱を側屈する。 |
■腸肋筋
起始:内側腸骨稜、胸腰筋膜、第3~12肋骨の後面
停止:第1~12肋骨の後面、頚椎4~7番の横突起
作用:脊柱の伸展(両側の活動)、脊柱の側屈(片側の活動)
腸肋筋は脊柱起立筋群の一部です。最長筋と棘筋もまた脊柱起立筋群に含まれます。これらの筋肉群は仙骨、腸骨、頭蓋に付着し、深層の横突間筋群よりも広い安定性と動作を供給します。脊柱起立筋群と横突棘筋群は、共に重力に抗して脊柱を直立位に保持します。
腸肋筋は3つの脊柱起立筋群の最も外側にあります。腸肋筋の分節は、仙骨と腸骨の後部から肋骨後部および腰椎と頚椎の横突起に向かって、ちょうど樹木の枝のように上部および外側に伸びています。この枝は脊柱の伸展と強い側屈運動に有利に働きます。さらに腰腸肋筋は強制呼気運動の際の肋骨の下制にも貢献しています。
※「ビジュアル機能解剖 南江堂」より引用
コアのはたらきをしている腸腰肋筋は脊椎につかず、骨盤から肋骨にとんでいます。腹直筋と同じように使い過ぎに陥りやすい筋肉で、腰の反り過ぎ(過伸展)、骨盤の前傾の原因となることがあります。また、腸腰肋筋の使い過ぎは、多裂筋や脊椎分節筋のはたらきを妨げると考えられています。
腰腸肋筋の過剰緊張は腰痛を感じることにつながります、慢性腰痛の人の腰腸肋筋に触れてみると過緊張状態に陥っていることが多いと思います。重労働や立ったまま・座ったまま動かない姿勢を長時間続けていると、腰腸肋筋が過剰緊張状態に陥りがちになります。悪化すると内臓やお腹側、下肢にも痛みを発することがあります(関連痛)。
腸肋筋を長く伸ばす |
体幹側屈時にはたらく筋肉群 |
胸腰筋膜 |
頭頸部側屈時の筋肉群 |
昨日のツイキャスの内容理解のための画像です。
スーパーフィシャル・フロント・ライン |
参考記事 → 負の感情をもつ人の全身姿勢は、体幹と腕が屈曲し、下肢が硬直し、頸上部が過伸展する。
腹直筋が短縮硬化する(固まる)と姿勢が崩れます。連動して胸鎖乳突筋も短縮硬化して、上部頸椎部が過伸展して頭部前方位姿勢となり、下あごが後ろに引かれ、肩甲骨周りが固まり首が短くなり、腕をあげることが困難になります。呼吸が浅くなり、まともな声が出なくなります。詰みます。
腹直筋が短縮硬化すると姿勢が崩れる |
■頑固(がんこ)
かたくなで、なかなか自分の態度や考えを改めようとしないこと。また、そのさま。かたいじ。
■頑迷固陋(読み)がんめいころう
かたくなで他の意見も聞き入れず、ものの道理もわからず、かちかち頭で視野が狭く、正しい判断が下せないさま。「頑迷」も「固陋」も、頑固で道理に通じていないという意味で、同じような言葉を重ねて強調したもの。
首がつぶれ、あごが壊れる頭部前方位姿勢 |
よく怒る人の腹筋は固まっています。トラブルメーカーは首が固まっています。上部頸椎部の過伸展は人生に暗い影を落とし続けます。見た目の印象も、声質も悪くなるため、結果的に運が悪くなります。姿勢を正すということは、脊柱の伸長を意味します(反りくりかえることではありません)。頑迷固陋となるため、他者からの忠言は聞き入れず、他者に対して説教をしてばかりの人生となりがちです。
自己流腹筋運動や自己流膝曲げスクワットを繰り返した人たちにありがちな展開なのですが、ソファやベッドでゴロゴロしながら生きていても、腹筋も首も短縮硬化します。身体操作法を間違ってしまうと、出てくる結果は悪くなるばかりです。頭部前方位姿勢のときに思いつくエクササイズは、だいたい間違っているものです。
まずは、恥骨から乳様突起・頭皮筋膜を遠ざけることが大切です。
ボディワイズ |
■ヘラーワーク(ジョゼフ・ヘラーによる機能的統合ボディワーク)
①手技で全身を再調整、慢性的な緊張とストレスからの解放。
②運動教育のプログラムを通し、座る、立つ、歩くなどの日常動作やスポーツの動きを、フィードバックしつつ再学習。
③対話を通して、肉体的緊張の要因となっている感情的なストレスを意識。
人体構造は体の動きによって影響を受ける。重力が、筋肉・靱帯・神経・血液などの結合組織に影響を与える。筋肉と筋繊維を包んでいる筋膜に働きかける。柔軟な筋膜は全身の動きを円滑にする。運動不足や運動過剰、間違った動作パターンにより、筋膜の層が互いにくっついて凝り固まり、ストレス蓄積の原因になる。
人体のバランスは重力と関係がある。垂直方向に真っ直ぐバランスのとれた体に対して、重力は協力的に働く。一方、バランスを崩した体は、重力の影響をストレスに感じる。重力に逆らわない自然な体は優雅に動くことができる。持久力と瞬発力が得られる。心のバランスもとれる。
「あなたにまかせますから、治してください」という人には不向き。「緊張している」という感覚、「楽である」という感覚を身につけ、緊張を解き放つためのフィードバック手法を身につけ、個人の生活環境や特徴に合ったしなやかな心身を築いていくための訓練。
「意識的であれ、無意識的であれ、人は体を通して自己表現している」
心理面での気づきを得ることによってはじめて、体の緊張から解放、感情のパターン自体も解放され、心身ともに自由な状態になることができる。
「楽であればどんな姿勢・動き方でもよい(ジョセフ・ヘラー)」
ボディワーカーがボディワークで緊張をとってあげても、本人が「なぜこの緊張が発生したのか?」を真剣に自分で考えないと、またすぐに緊張してしまいます。どこに緊張があったのかを深く理解し、その発生原因を自ら考える必要があるのです。そのとき表に現れている緊張を他者が取り除いても、それに隠されていた別の緊張が現れてくるだけです。悪癖をやめない限り、不要な緊張の発生は一生涯続きます。緊張をとってもらうという行為を一生涯受け続けるということになりかねません。
初期は、機能解剖学的な正しい姿勢と動き方に導いていましたが、後に、本人にとっていちばん楽な姿勢・動き方に自ら気づいてもらうスタイルに変化しています。「緊張という感覚はどのようなものなのか?」ということに、自分で気づくことが大切なのです。
頭部前方位(頸上部過伸展) |
「アナトミー・トレイン – 徒手運動療法のための筋筋膜経線 医学書院」より
■SFL、頸、驚愕反応
フェルデンクライスは、「負の感情はすべて、屈曲として現れる」と述べている。この単純な言葉の一般的な真実は、人間の行動を毎日観察している人であれば誰でも納得がいくものである。怒りによる前かがみ状態、うつ状態によるうなだれた姿勢、恐れによる身を縮めた姿勢は数多く、様々な形態でみられる。これらはすべて屈曲に関与する。
上述したように、四肢動物のなかで、人間だけがもっとも脆弱な部分がすべて文字通り「前線」に置かれて誰の目にもさらされている(すなわち餌食になる)。人々は、鼡径部を縮める、腹部を締める、胸部を引っ込めるなど、それとはなく、あるいは明確に、この感受性の高い部分を保護している。人間が脅威を感じると小児の姿勢(一次的胎児屈曲)や防御的姿勢(四つ這い)に戻るのはまったく自然なことである。
しかし、フェルデンクイスの観察には注目すべき例外がある。すなわち、負の感情は通常、上頸部の屈曲ではなく過伸展を引き起こす。これは驚愕反応と呼ばれる反応に極めてはっきりと見ることができる〔トーマス・ハンナは「赤信号反射」と呼ぶ〕。
明らかなことは、驚愕反応は全体的な屈曲反応ではなく、SFL上での短縮と緊張ということである。この反応全体は、乳様突起が恥骨に近づけられることからはっきりと示される。これは前面で器官を保護するのみならず、頸を退縮かつ過伸展させ、頭を前方に下げる。
SFLの筋も頻繁にこの反応に関与し、肘の屈曲や肩の保護もこの全体像に当てはまる。したがって、驚いた人の全身姿勢は、頸上部の過伸展に加えて、下肢が硬直し、体幹と腕が屈曲する。
問題は驚愕姿勢が維持される場合に生じる。人間は長い時間にわたり完全に、かつ反復してこの姿勢を維持できる。この姿勢とこれが変化した型は、ほぼすべての人間の機能にマイナスの影響を与えるが、特に呼吸はSFLの短縮で制限される。ゆったりとした呼吸は、肋骨の上向き運動や外向き運動、骨盤と呼吸横隔膜との相互関係によって決まる。短縮したSFLでは、頭を前方に引き下げ、肋骨運動を制限する前後両面においての代償的緊張が必要となる。防衛的緊張が腹直筋を越えて下肢まで進む場合、鼡径部の短縮は呼吸横隔膜と骨盤隔膜とのバランスを崩し、呼吸は極端に横隔膜前部に頼るようになる。
実際、最初の驚愕反応では爆発的な呼息が生じる。持続的驚愕反応は呼吸サイクルの呼息期で止まる顕著な姿勢的傾向を示す。これに続いてうつ状態を伴う可能性がある。SFLをゆっくりと完全に上行する。これらの組織を解放する。および、SFLの各要素を上部から持ち上げられるようになることで、身体的負担要素を解放することができ、極めてよい結果となることが多い。
引用ここまで
関連記事1→腰背部に水平状・帯状の痛みがあるとき、その原因は腹直筋にできたしこり(索状硬結)かもしれません。
関連記事2→腹直筋のほぐし方(テニスボールを使った圧迫伸長テクニック)
「ダンスの身体表現における感情認知とインタラクションに関する研究 鹿内菜穂」より
感情という言葉は心理学や精神医学の用いられる情動、気分、情緒などを含めた総称として用いられている。感情は情動が人の意識に呼び起こされ、人が内的に感じる主観的な経験といわれている(濱ら 2001)。
情動とは、欲求の満足や阻止に伴って体験され、生物学的基盤によって支えられており、扁桃体、帯状回、海馬、視床の一部を含む大脳辺縁系と呼ばれる部位が情動の発生と深い関連がある(船橋 2007)。
基本情動は,怒り・恐れ・喜び・悲しみ・驚き・嫌悪の 6 種類(Ekman, 1992)や、喜怒哀楽、愛・憎、快・不快、ポジティブ・ネガティブ感情が挙げられることが多い。一方、気分とは、情動が比較的長い間続く状態であり、健康の時の爽やかな気分、病気の時のけだるい気分が挙げられることが多い。気分と情動の違いは、情動は生理学的な興奮が強いのに対して、気分はそれが弱いことであり、情動の持続時間は数秒、数分と短いのに対して、気分は数時間、数日、数ヶ月と続くこともあるといわれている(船橋 2007; 濱ら 2001)。
人は顔の表情だけでなく、姿勢や身体動作から他者の感情を読み取ったり、感じたり、理解したりして、コミュニケーションをはかろうとする(大坊 1998)。つまり、動作が生み出す表現にはその表現内容を知覚認知させる情報が含まれており、人はその情報を受け取っている。
接近の姿勢は対象の方を向くことから興味・関心を示し、撤退の姿勢は対象の方を背くことから拒絶・嫌悪を示す。拡張の姿勢は伸びて反ることから自信・優越を示し、収縮の姿勢は体を丸めることから落胆であると示した。
興味や退屈,快や不快といった感情は、態度や状態として直感的に理解しやすい。頭や背筋が伸びているとポジティブな感情、頭と肩が前に出て骨盤が引いてあるとネガティブな感情として評価もなされている。
動作の特徴をみていくと、体が伸びるとポジティブな感情が、体が収縮しているとネガティブな感情が予測されるといわれている(deMeijer, 1989)。また活動性が高く拡大的な動作は喜び、同じように活動的で拡大的で、かつ速くて強い動作は怒りの感情と関係がある(Wallbott, 1998, Wallbott &Sherer, 1986)。縮小的で遅く、弱い動作は悲しみと関係がある(Wallbott & Sherer,1986)。
引用ここまで
「声を解放する。歌う。」の、「やっているあいだに、首を硬くしたり、体を押し下げていなかったか? 息を吐くとき屈みこまなかったか? 首を硬くして、肩を上げて、息を吸っていなかったか?」これらのパターンを避けることが、自由で精力的な声をつくり出す土台になります。……という一文を理解するのに、「負の感情をもつ人の全身姿勢は、体幹と腕が屈曲し、下肢が硬直し、頸上部が過伸展する。」という知識が役に立つと思います。
ひとつだけはっきり言えることは、「体幹と腕が屈曲し、下肢が硬直し、頸上部が過伸展している状態では、正の言葉(ポジティブワード)を発することはできないし、正の動作(ポジティブムーヴ)を起こすこともできない。」ということです。体幹と腕が屈曲し、下肢が硬直し、頸上部が過伸展している状態で発する言葉や動作は負(ネガティブ)にしかなりません。
負の感情をもつ人の全身姿勢は、体幹と腕が屈曲し、下肢が硬直し、頸上部が過伸展する。体幹と腕が屈曲し、下肢が硬直し、頸上部が過伸展している人は負の感情をもつ。
人体は、縮んでいる部位に痛みは発しにくい仕組みになっています。引き伸ばされている部位に痛みを発しやすい構造になっています。負の感情を持つ人は、「やってはいけないことを全力でやる」という傾向が強いのですが、驚愕反応が強い人ほど、破滅的な言動を繰り返してしまう一因ではないかと考えております。
声のワークは、良い呼吸から始まります。 |
■声を解放する
声のワークは、良い呼吸から始まります。効率的な呼吸は、効率的な姿勢によるのです。これによって、体の長さを失わずに、息を吐くことと空気を取り入れることが可能となります。背筋をぴんと張ったり、しぼんだ風船のように体を縮ませると、自然な呼吸を乱し、声に干渉してしまいます。
姿見鏡の前に立ちます。「fff」の発音で声を出したら、口を閉じて、鼻から自然に息が戻ってきます。3回繰り返します。終わったら、鏡の自分を観察して、たずねます。「やっているあいだに、首を硬くしたり、体を押し下げていなかったか? 息を吐くとき屈みこまなかったか? 首を硬くして、肩を上げて、息を吸っていなかったか?」これらのパターンを避けることが、自由で精力的な声をつくり出す土台になります。
■歌う
呼吸と精神には、深いつながりがあります。わたしたちは音を通して、自分自身を表現しているということができます。
しばしば、歌うために息を吸い過ぎるという習慣があります。もちろん、呼吸は必要なのですが、最初の一息に計算ミスが多いのです。美しい声をつくるためには、呼吸の圧と声帯が、ふさわしい関係を持つことが必要です。そして、身長が長くなることで、全体が整えられ、声がうまく響きます。息を吸い過ぎることは、その相互作用をこわしてしまいます。必要以上に息を吸っているときには、首が硬くなり、体が短く狭くなっているので、自分で気づくことができます。
実際の声は、呼吸の影響を受けます。息を声門に向かって押しつけると、気息音を聞かせたり、しゃがれ声を出すことができます。これは空気を無駄使いするので、歌うことや、長いフレーズを保つことができなくなります。呼気はどちらかというと自然にもたらされた吐息のようなものです。これは、息の音が混じった声質が欲しいとき、ジャズや、ブルースを歌うときには、問題は何もありませんが、その質が求められていないときには悩みの種になります。声と呼吸をつなげることによって、この習慣を減らすことを助けます。
脚を硬くする癖も、歌手にとって問題となります。これが起こると、足の裏がばったりと床に平らに置かれ、土踏まずが硬くなります。脚は、筋肉によって横隔膜の付け根とつながっていますから、この筋肉がつづいて硬くなり、その筋肉がしめつけられ、その結果、声が制限されてしまいます。声が、車輪の輪に乗っかる代わりに、車輪の輪に引っかかったようなものです。脚が楽に背中と横隔膜につながっているので、声は泉のように湧き上がってきます。
■歌の準備への提言
歌う準備のため、即座な反応はすべて止めましょう。これはとても難しいことかもしれません。伴奏者が最初の音を弾きだすと同時に、歌う準備をしてしまうからです。
新しく方向性を与え、頭が前にうなずいて上に行くと、全身長で立ちます。助けを得ようとして、見上げないでください。音楽的に準備が整っていれば、助けは必要ないのですから。
「ウイスパード・アー」から、口を閉じて、優しく楽にハミングし、ハミングしながら口を開いていきます。響きはハミングのまま、内側に残ります。ハミングしながら口を開け、ハミングしながら、そのまま音を切らずに「あー」をいいつづけます。
歌いはじめます。でも、自分がどのように歌っているかを考えます。準備のしすぎや、締め付けのような古い習慣を見つけたら、すぐに歌うのを止めます。
難点を予想しないことです。高音は怖くないのですから、無理をしなくてよいのです。
■ウイスパード・アー
①口から息を吐きだします。首はらくにして、息を吐くときにも硬くしません。空気は鼻から戻ってきます。繰り返します。
②何か微笑みたくなるような、笑いたくなるようなことを考えます。
③首はらくで頭は前と上へ行きます。胸郭はたっぷり動いて胴体全体が幅広くなります。腹筋を硬くしたり上胸部を押し下げたりしません。
④舌先を下の歯の裏につけます。これは舌の後部を引き込めないためで、のどをしめつけることを防ぎます。
⑤あごが前と下に下がって、口がひらきます。頭の重みが後ろへ落ちないように。音を立てずに「アー」といいます。
⑥息のおわりにきたら、口を閉じると空気が鼻からもどります。手順を繰り返します。
舌を下の歯につけることで、舌の後部が持ち上がるのが防がれ、のどの圧迫がさけられ、拮抗する強い筋肉をひっぱります。舌はからだ全体のなかでも骨(舌骨)につながる唯一の筋肉です。それはいつも過剰緊張しやすく後ろへ引き込みがちな傾向がつよく、空気の流れを制限するだけでなく、緊張した声をつくりだします。
※「図解 アレクサンダーテクニーク グリン・マクドナルド 産調出版」より引用
「腰背部に水平状・帯状の痛みがあるとき、その原因は腹直筋にできたしこり(索状硬結)かもしれません。」の続きです。
腹直筋の上部繊維と下部繊維のトリガーポイント |
うつぶせになって、テニスボールをトリガーポイントに当て、お腹をゆるめながら恥骨と胸骨・肋軟骨を遠ざけつつ、ゆっくりと呼吸をします。
腹直筋の圧迫伸長テクニック |
うつぶせになって、テニスボールをトリガーポイントに当て、お腹をゆるめながら恥骨と胸骨・肋軟骨を遠ざけつつ、ゆっくりと呼吸をします。テニスボールを当てている位置を頂点とした弧を描くようにするとうまくいくはずです。
腹直筋は強制呼気筋なので、力強く吐くと収縮してしまうため、ゆるんでくれません。自然呼吸で、吸う方に意識を向けるようにします。同じ理由で、尾骨のタックイン(たくし込み)もいれません。
腹直筋トリガーポイント |
腰背部に水平状・帯状の痛みがあるとき、その原因は腹直筋にできたしこり(索状硬結)かもしれません。上部繊維にしこりができると胸椎領域(肩甲骨下部付近)に水平状・帯状の関連痛が、下部繊維にしこりができると腰部領域(仙骨から腸骨上付近)に水平状・帯状の関連痛が生じます。後ろに反ったときに痛みが出るようであれば、腹直筋にしこりができていると推測されます。
また、上部繊維のしこりは消化不良や胸やけに、下部繊維のしこりは生理痛に関連するとされます。
そして、腹直筋のしこりは、間違った負荷によって障害された結果ですので、間違った腹筋運動を行なってさらに過度の負荷をかけることで関連通症状を悪化させてしまう結果になりがちです。また、感情的ストレスを抱えている場合、防衛機能がはたらいて腹壁が緊張し、腹直筋が固まることも多くあります。
フェルデンクライスの言葉に「負の情動は屈曲に現れる」というものがあります。体を曲げる機能を持つ屈筋に負の感情の影響出るとされています。交感神経が優位となることで、さらに屈筋が緊張緊張することになります。腹直筋は屈筋なので、モロに影響を受けることになります。
安部塾では腹直筋のしこりのほぐし方を教えておりますが、著効を得られております。屈筋を短縮硬化させ続けていると、負の感情の塊になってしまいます。はやめに対処することをおすすめいたします。
吐く筋肉と吸う筋肉 |
効率的で有益な呼吸は、良い姿勢や明確な思い、そして本来のデザイン通りに体を使うことにおいて、不可欠なものです。ほかの多くの体の機能と同じように、呼吸という単純な行為も、しばしば無意識の中で制限されています。
不利な姿勢と身体の誤用は、筋の過剰緊張をもたらします。筋緊張は、胸郭、肺、鼻腔、口、のど(気管)に至る機能に影響を及ぼします。また、よく見られる上半身が崩れた姿勢や縮こまった姿勢を起こさせます。姿勢が崩れると、空気を取り入れる肺の容量に多大な制限をかけることになります。そして、「浅い呼吸」となってしまい、必要な空気を取り込むに当たって、より労力を要する状態となります。つまり、本来の楽な呼吸を、あえて労力をかけておこなってしまうというわけです。
この余分な呼吸は、ほぼ無自覚なまま行われています。私たちは浅い呼吸と負荷のある呼吸に慣れてしまっているからです。これが長年行ってきた呼吸の仕方であり、私たちはそれを「普通」「正しい」と感じています。
悪い姿勢を定着させてしまい、私たちの動作から美しさ、全体的な協調性、器用さが奪われ、呼吸パターンを制限しています。自然な深い呼吸が制限されて、十分な酸素を得ることができなくなると、あなたの体が別の方法で必要な酸素量を確保しようとするでしょう。呼吸を速めて呼吸頻度を増やすようにするはずです。そのため、短く浅い呼吸となります。
自然な呼吸は、特定の呼吸や呼吸エクササイズを行うのではなく、有害な習慣をやめていくことで得られるものです。
アレクサンダーはプロの俳優・朗読家であり、効率的な呼吸は彼の朗読にとって極めて重要なことでした。アレクサンダー・テクニークは、効率の悪い呼吸の習慣に気づいて、それを予防していくものとなります。「やっていることを、より少なくする」という考え方をベースにしたアレクサンダーの有名な言葉に「呼吸しようとしなければ呼吸ができる、ということが最終的にわかったことだ」というものがあります。
呼吸が反射によって自然に行なわれることを理解しておくことは大切です。私たちは「習慣を手放す」必要があり、そして「自然に任せていく」ようにすることが大切なのです。
引用ココマデ 「アレクサンダー・テクニーク完全読本 移動の日本社 141-143P」より
吸う |
呼吸時のインナーコアユニット |
呼吸の深さは根気強さとつながっているという説があります。理論的に考えてみると、「呼吸が浅い人は必要な酸素量が確保できていない=持久力がない」ということになります。呼吸が浅い人のトークや歌を少し聴いてみればすぐにわかると思いますが、聴いているだけで息苦しくなってきます。声を介して緊張が伝わってくるからです。呼吸が浅い人の歌の波形はこんな感じです。
呼吸が浅い人の歌の波形 |
聴き始めてすぐにわかるのは「声が小さい~出ていない」ということです。発声という機能は身体能力に依存するので、大きな声が出ないのです。緊張でのどを締めつけているため、何を言っているのかわかりませんし、低音域と高音域が出ていません。声に伸びがないので安定しません。
声の大きさに関しては、「奥田民生――その大声ボーカルの魅力について」が好きです。
音程とか、音域とか、表現力とか、ボーカル力を測る指標は色々とあるが、「ロックボーカリストは、まず声がデカくなければならない」と、ここは誤解を怖れず言い切ってしまいたい。
その大声が、ほとんどビブラートをかけずに発せられるのも、聴く側にとって、原始的な快感となる。言わば、余計な変化や変則的な回転無しで、ただひたすらど真ん中に投げ付けられる剛速球、それが「奥田民生大声ボーカル」の魅力だと考えるのだ。
私は、体の動きも「火の玉ストレート」が好きなのですが、自然な呼吸で発せられるパフォーマンスには原初の喜びがあります。ソフトボイスでありながら声量があるのが理想的だと感じております。
6月の各地の集中講座では、自然な呼吸と発声についての解説もしていく予定です。
6月の各地の集中講座の内容は、「体がよみがえる姿勢と動作」「疲れにくく、楽な動きが身につく体の使い方」です。インヒビション(抑制)、ディレクション(指示)、誤りやすい感覚評価、プライマリー・コントロールなどについて、安部塾的な視点でお話しします。
教科書は、薬院校時代にも使っていた「アレクサンダーテクニーク完全読本」です。今回の内容部分を少し引用いたします。
アレクサンダー・テクニーク完全読本 / リチャード ブレナン 医道の日本社 |
■インヒビション(抑制)(47P)
何かを抑圧するわけではありません。ただ考える「間」となるひとときをつくるだけです。「本能のままの表現を制限すること」です。
アレクサンダーは、体の使い方をより良いものに変えるためには、まず。受けた刺激に対して習慣的、本能的に反応することを抑える(または、やめる)必要があることに気づきました。
ある行為を行なう前に少し休止のひとときを持つことで、私たちはその行為を行うに当たって最も効率的で適切なやり方を選ぶという理性の力を活かすことができます。刺激と反応の間に「考えるひととき」をつくるという重要なステップが、あらゆる場面で自由に選択する力を私たちにもたらしてくれるのです。
行動のために脳を働かせる前に、「行動をやめる」ために活かすのです。適切に準備できるまで自らの反応を遅らせる(休止させる)能力が、インヒビションの意味するところなのです。行動する前の休止のひとときは、何かを前にして固まってしまうことや、よく用いられる意味での抑圧、ゆっくり行動することとは違います。
■ディレクション(指示)(55P)
ディレクションとは、脳から体のメカニズムへメッセージを出し、そのメカニズムを利用するために必要なエネルギーを伝えることに関係するプロセスである。
あなたが特定の部位に指示を出す(例えば「指を伸ばす」と考えていく)ことや、自分全体に指示を出す(例えば、身体全体を伸ばした状態にする)ことは可能なことです。また、あなたがどこに行くか、そこにどのように行くかを意識的に決めていくなど、空間の中で自分の行く方向について指示を出すことも可能です。
■誤りやすい感覚評価(63P)
第1に、自分に欠点、または解消の必要がある問題点があるということを、生徒ははっきりと認識していなければならないでしょう。第2に、教師はその問題点を明確にして、それを是正する手段を決めなければなりません。生徒は、自分の肉体的な動作についてメンタル面で混乱していること、つまり自己の感覚評価、または筋感覚が不完全であることを認めることになるでしょう。別の表現で言えば、日常の単純な行為を達成するために必要な筋緊張の程度の感覚ですら、誤っていて、有害だったりすることに気づくでしょう。そして生徒が「リラックス」や「集中」といった状態にしようと思っても、この感覚的な誤りのせいで、実現不可能になってしまうのです。
人類は、自己の心と体のメカニズムを行使するに当たって、潜在意識レベルで、この不純な感覚と不純な感覚評価に依存しています。
このアレクサンダーの言葉をシンプルにすると、「私たちが実際にしていることと、私たちが『している』と考えていることは、まったく異なる」ということです。
正しいことをすることは、私たちが最も避けたいことである。なぜなら、私たちが「正しいことをしよう」と考えること自体が、邪魔するからだ。すべての人は正しくありたいと願うが、誰も「自分が正しいと考えていること」が本当に正しいのか考えようとはしない。
■プライマリー・コントロール(93P)
自身を長くすることは、浮力を得る感覚に加えて、強さも与えてくれます。椎間板が広がる場合は、椎骨に付着する小さな筋は長くなり、それによってより強度を増すことになります。椎間板と小さい筋によって起こされる「長く、そして強くなる」ことは、純粋に機械的な方法で、より長い筋に伝えられ、そのプロセスは表層にも及びます。この「長く、そして強くなる」プロセスは、動作によってさらに強化されます。体や体の一部を重力に逆らって動かす際は、持ち上げる筋は、持ち上げられた部位によって伸ばされることになり、それによって力が促進されることになります(つまり、重力に逆らう動きは、重力そのものによって促進されるということです)。
例えば、椅子から立ち上がる際には、頭と首、背中は1つのユニットとなって、その長さを失わずに、前に動くことになります。このプロセスの中では、腰部や臀部、大腿の筋は伸ばされます。その伸張がある強さのレベルに達すると、伸張された筋は反射で収縮し、股関節を伸ばすことになり、さらに膝周りの筋も伸ばすことになります。この結果、体はスムーズに、そして簡単に持ち上げられます。感覚としても少しの労力でできる、または力を入れずにできるように感じるでしょう。
※引用ココマデ
本日の新宮校集中講座で、「前腕を上に向ける肩関節内旋筋ほぐし」と「前腕を下に向ける肩関節外旋筋ほぐし」をおこないました。肩関節がきっちりハマります。肩の腱板筋が固まって硬くなっているので、ごくゆっくりとじゅうぶんな注意を払いながらおこないました。
前腕を上に向ける肩関節内旋筋ほぐし・前腕を下に向ける肩関節外旋筋ほぐし |
■前腕を上に向ける肩関節内旋筋ほぐし
立位で片腕を外側に伸ばし、前腕を90°上に向けます。手で棒をつかみ、肘の後ろに通します。他方の手で棒の下部を前方に引っ張ります。大胸筋・肩甲下筋・大円筋・小胸筋・三角筋前部がほぐれます。
■前腕を下に向ける肩関節外旋筋ほぐし
立位で片腕を外側に伸ばし、前腕を90°下に向けます。手で棒をつかみ、肘の後ろに通します。他方の手で棒の上部を前方に引っ張ります。棘下筋・小円筋・三角筋後部がほぐれます。
参考文献「ブラッド・ウオーカー ストレッチングと筋の解剖 南江堂」
■clams(はまぐり)
クラムス |
股関節をハメて使うためには、お腹と背中の使い方を理解しておく必要があります。
骨盤と肋骨の対角 |
下図の矢印をイメージして上前腸骨棘を引きあげます。
らせん筋経線 |
前鋸筋と菱形筋の接続 |
足関節と股関節 |
足関節と腰腹 |
ペッピックティルトやペルビックカールで、膝と膝の間にブロックを挟んでいるのをよく見かけると思います。挟んでいる理由は「大内転筋と大臀筋下部繊維を使いたいから」です。
大内転筋と大臀筋 |
大内転筋と大臀筋下部繊維 |
斜角筋 |
前斜角筋の起始:頚椎3~6番横突起の前結節/前斜角筋の停止:第1肋骨の上内側面
中斜角筋の起始:頚椎2~7番横突起の後結節/前斜角筋の停止:第1肋骨の上外側面
後斜角筋の起始:頚椎5~7番横突起の後結節/前斜角筋の停止:第2肋骨の側面
『作用』
●頭部と頚部の屈曲(両側の活動):前斜角筋、中斜角筋のみ
●頭部と頚部の側屈(片側の活動)
●頭部と頚部の反対側への回旋(片側の活動):前斜角筋のみ
●強制呼気運動時の第1・2肋骨の挙上
斜角筋は前斜角筋・中斜角筋・後斜角筋の3つの部位で構成され、頚部の外側に位置しています。上部僧帽筋の前縁と胸鎖乳突筋の後縁の間に、斜角筋への「窓」があります。これらの大筋群は、すべて共動して頚部を側屈し、また頭部および頚部を安定させます。さらに、鎖骨下動脈や腕神経叢のような深層構造を覆う防護マントとなります。
斜角筋は、第2肋骨の外側、第1肋骨の前方外側に枝分かれして付着します。この停止部のばらつきにより、前斜角筋は頭部、頚部を屈曲、回旋させ、他の斜角筋は側屈させます。
頭部と頚部が固定されているとき、斜角筋は吸気運動で第1肋骨と第2肋骨を挙上させます。この挙上は胸郭の空間を増大させ、肺により多くの空気を流入させます。これはしばしば強制呼気時に生じます。横隔膜は通常のリラックスした呼吸時に関与します。強制呼吸は高強度運動時や喘息のような肺疾患でよく見られます。
吸気筋群 |
斜角筋の過剰な拘縮、筋肥大(使い過ぎによる)、外傷、構造不良は、腕神経叢や鎖骨下動脈のように保護されている構造の圧迫を生み出します。この一般的な疾患は胸郭出口症候群と呼ばれます。
※参考文献 「ヴィジュアル機能解剖 南江堂」
※胸郭出口症候群は神経障害と血流障害に基づく上肢痛、上肢のしびれ、頚肩腕痛(けいけんわんつう)を生じる疾患のひとつ。
長趾伸筋・長母趾伸筋 |
■長趾伸筋
起始:脛骨上端外側顆、腓骨前縁、下腿骨間膜
停止:第2趾~小趾の趾背腱膜と末節骨底
作用:第2~5中足趾節関節と趾節間関節の伸展、足関節の背屈、足部の外返し
長趾伸筋は前脛骨筋の外側部に沿っています。その主機能は外側4趾の伸展です。その筋腹は遠位端で4つの異なった腱に分岐し、足部上部の中節骨と末節骨で停止します。すべての遠位関節に停止していることによって、中足趾節関節や趾節間関節などのつま先部の伸展が可能となります。
長趾伸筋は下腿前方全面を縦断し、足関節にも影響を与えます。足部が遊離していても固定されていても、足関節の背屈動作で前脛骨筋と長母趾伸筋を補助します。下腿と足部の外側に位置するので、足部の外返し時には腓骨筋を補助します。
■長母趾伸筋
起始:腓骨前方中央、腓骨中央骨間膜
停止:母趾末節骨基部の背側
作用:母趾中足節関節と趾節間関節の伸展、足関節の背屈、足部の内返し
長母趾伸筋は前脛骨筋と長趾伸筋の間に沿っています。それらの2つの筋肉より深層に位置し、触知するのが困難です。その主機能は母趾の伸展です。筋腹はわずか外側に沿って、収束された腱は伸筋支帯を通ります。その腱は、母趾末節骨に停止する手前で内側方向に曲がっています。すべての遠位関節に停止しているので、中足趾節関節や趾節間関節などのつま先の伸展が可能となります。
足部が遊離していても固定されていても、足関節の背屈動作で前脛骨筋と長趾伸筋を補助します。長母趾伸筋が伸筋支帯で屈折することで、足部の内返しにも影響を与えます。その際は、前脛骨筋、後脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋を補助します。筋肉の曲がりは、前脛骨筋や深部後方の筋群による足部の回内に対する調整も可能にします。
※参考文献「ヴィジュアル機能解剖 南江堂」
ハンマー趾・鷲爪趾 |
適応:ハンマー趾(槌趾)/鷲爪趾/足の痛み(足背)/母趾の痛み/夜間のこむら返り/前側コンパートメント症候群/下垂足
※参考文献「トリガーポイント治療 緑書房」
前脛骨筋 |
起始:脛骨上方1/2、脛骨外側面、下腿骨間膜上方1/2
停止:第1楔状骨底面、第1中足骨基部底面
前脛骨筋停止 |
作用:足関節の背屈、足部の内返し
前脛骨筋は下腿前方の大きい浅層筋です。その機能は足の状態によって異なります。足部が浮いている状態では、前脛骨筋は足部遠位部を持ち上げます(背屈)。この機能は、歩行時の遊脚相でつま先を地面に引っかからないようにし続けています。背屈位を維持することで、最初に踵(かかと)から接地することも可能となり、踵接地から立脚相へ移行する際の衝撃を吸収する理想的な姿勢をつくります。
足部が地面に固定されている状態では、前脛骨筋は足部を引き上げます(背屈)。この機能は、歩行の立脚相で見られます。踵接地が行なわれると前脛骨筋は継続して収縮し、重心の位置を足部前方に寄せます。この機能の酷使や筋力低下は、炎症やこの筋肉に沿った腱炎を引き起こします。これは下腿前方痛の原因となる要素の1つで、一般的に「シンスプリント」と言われています。
最後に前脛骨筋は、足部の内側縦アーチを支えるのに役立っています。その腱は、足底部の伸筋支帯を横断します。その腱は足底面の内側楔状骨内側面と第1中足骨に停止する前に、内果を回ってから前方に曲がっています。腱のこの角度によって前脛骨筋がテコとなり、縦アーチ中央部が引き上げられ、回内を制限し、同時にコントロールしています。それは、相乗作用として後脛骨筋と共に土踏まずの高さを維持し、腓骨筋と拮抗したかたちで足部の回内・回外動作に作用します。
参考文献「ヴィジュアル機能解剖学 南江堂」
基本的な機能運動:歩行とランニング(踵の着地後、足が地面にたたきつけられるのを防ぐ補助をします。下肢を前方に出す際に、足先が地面につかないように足関節を背屈します)。
適応:足関節の痛みと圧痛/母趾の痛み/シンスプリント(前側コンパートメント症候群)/足を引きずる/痛風/ターフトゥ(母趾の付け根の痛み、つま先立ちしたときの痛み)/転倒/バランスの問題
参考文献「トリガーポイント治療 緑書房」
前鋸筋・小胸筋・僧帽筋 |
■前鋸筋
起始:第1~8もしくは第9肋骨の外側
停止:肩甲骨の内側縁前方
作用:肩甲骨の外転・下制・上方回旋/停止部が固定されているとき吸気の補助
前鋸筋・肩甲挙筋・菱形筋・肩甲下筋 |
肩甲骨外転 |
前鋸筋は僧帽筋とも協調して関節窩を操縦し、頭上での運動を最大可動域で行わせます。この機能は、手を届かせる、押すなどの動作時の適切な肩甲上腕リズムに不可欠です。肩甲上腕リズムとは肩甲胸郭関節と肩甲上腕関節の間で起こる共同作業です。
肩甲骨上方回旋 |
最後に、前鋸筋は横隔膜、外肋間筋、小胸筋、斜角筋や他の胸腔に付着する筋と共に、強制的な吸気を可能にします。たとえば運動に伴い息が苦しくなったとき、肩甲骨内側縁が胸郭に固定されていれば呼吸を漸増させることができます。
※参考文献「ヴィジュアル機能解剖学 南江堂」
前鋸筋は板状で胸郭の外側を被っています。前鋸筋の起始は上位10本の肋骨で、肩甲骨の内側縁全面に停止します。
作用:肋骨を固定すると、前鋸筋は肩甲骨の内側縁を胸郭に平たく押しつけます。前鋸筋の上部繊維が肩甲骨を上方に引き(外転)、上向きに回旋します。腕で壁などの何らかの抵抗に対して押す力を働かせると、筋繊維が収縮するのが見られます。
肩甲骨外転 |
腕立て伏せなどの動きは腕に過大な力が加わるので、前鋸筋が肩甲骨に対して近づけ、正しい位置に固定します。腕立て伏せなどのような状況では、僧帽筋の中部繊維(内転筋)と前鋸筋(外転筋)が同時収縮して肩甲骨を固定します。
僧帽筋中部繊維・前鋸筋 |
いくつかの脂肪層(滑走面)が前鋸筋を肩甲下筋や胸郭から分離します。これによって肩甲骨の可動性が増加します。脂肪層は肩甲骨の複雑な動きにおいて重要な役割を果たします。
肩甲骨を固定すると、前鋸筋の下部繊維が中位肋骨を挙上し、吸気筋として作用します。
※参考文献「新・動きの解剖学 科学新聞社」
大円筋 |
起始:肩甲骨の下角後面
停止:上腕骨の小結節稜
作用:肩関節の内転・伸展・内旋
大円筋は肩関節の伸展、内転、内旋という広背筋と同じ作用を持ち、両者は共動筋として直結しています。この大円筋と広背筋は共に上腕骨の前方に巻きつき、結節間溝に付着しています。この2つの筋肉の間には強力な連結があり、大円筋は「広背筋の小さな補助者」と呼ばれています。
大円筋は肩甲下筋と一緒に肩関節を内旋させ、他の腱板よりも強く作用します。小円筋は大円筋とほぼ同じ形状をしていますが、その機能は同じではありません。事実、小円筋は上腕骨の後方に巻きつき、肩関節の外旋に作用するため、大円筋の拮抗筋となります。
腕が固定されているとき、大円筋は広背筋と共に働き、よじ登るような動作では体幹を腕のほうへ引き上げます。腕が固定されていないときは肩関節の内旋筋群や伸筋群と共に、水泳や投球動作、頭上で打つ動作などで、挙上した腕を前や下に引くように働きます。
参考文献「ヴィジュアル機能解剖学 南江堂」
烏口腕筋 |
起始:肩甲骨の烏口突起
停止:上腕骨の内側中央1/3
作用:肩関節の屈曲・内転
烏口腕筋は上腕二頭筋と共に、肩関節の屈曲と内転に強く働きます。これはまるで第三の上腕二頭筋のようです。この筋は、内転時に三角筋の拮抗筋となり、三角筋は外側、烏口腕筋は内側に位置しますが、上腕骨の中央辺りに付着部を持つ点は似ています。
烏口腕筋、広背筋、大円筋、大胸筋、上腕三頭筋の長頭は、共に肩関節の内転に作用します。下に引いたり、身体のほうへ寄せるような動作や、腕で体重を支えるような活動、スポーツ動作では体操の吊り輪や平行棒などが、肩関節の内転を含みます。烏口腕筋はゴルフスイングやソフトボールで速球を投げるなどの腕が体を横切るときに使われます。
烏口腕筋は肩関節をしっかりと安定させ、歩行動作時に前への腕の振りを補助しています。
※参考文献「ヴィジュアル機能解剖学 南江堂」
閉鎖筋と双子筋 |
閉鎖筋と双子筋 |