2020年11月30日月曜日

どこに向かって息を吸えばいいのか?

 息を胸に吸おうとすると、首が固まって不自由になり、苦しくなります。では、どこに吸えばいいのでしょうか?

安部塾では、「腰に吸いましょう」と提案しております。仙骨岬角あたりを意識いたします。重心点に向かって息を入れていきます。

重心線と重心点(仙骨)

重心線と重心点(脊柱)

息は前には入りませんし、下側にも入りません。肺の位置を確認してみましょう。

肺の位置

まあ、入るわけがありませんね。右肺と左肺の間には心臓がありますし、横隔膜の前方部直下には肝臓・胃・脾臓がありますし、そもそも肺は肋骨上部にしかありません。入るはずがない場所に入れようとしたら、首が過剰に緊張してしまいます。重心はあがり、心は不安定になり、いいことありません。肺の下縁を意識して、肺の周りの筋群を緊張させないようにしましょう。

肺の下縁

肺は、思ったよりも上部にあり、意外と小さい器官です。そして、胸椎と肋骨の間の関節を動かさないと、息が吸えません。肋骨の動きを見てみましょう。

呼吸時の肋骨の動き

集中講座参加者には自明の理かと思いますが、ふくらませる場所の意識を間違えると詰みます。牛の腹側の肋骨に接する部分をハラミ(アウトサイドスカート Skirt steak)、背側の腰椎に接する部分をサガリ(ハンギングテンダー Hanging tender steak)と言いますが、これは人間も同様です。そう、腰椎を意識して息を吸うと、ちゃんと吸えるのです。

横隔膜の付着

言うまでもありませんが、腰椎1~3番は仙骨岬角と直結しておりますので、仙骨岬角を意識して吸うことで、骨盤底筋群に内臓で圧をかけることが可能となり、動きが美しくなるというわけです。

12月5日(土)の下関集中講座、6日(日)の大牟田機能運動学サークルにて詳しく解説いたします。

「何かをする」より「何もしない」ほうがよいことが多いものです。「優游 復 優游」

 姿勢改善のコツのひとつに、「何かをする」よりも「何もしない」ほうが姿勢がよくなるというものがあります。よく誤解されているコツだと思います。「余計なことをしない」という意味なのですが、ほんとに何もしないのだと解釈してしまったりするようです。「脱力」の問題と同様、「余計な力を入れない」ということの意味を理解するということ自体が難しいのではないかと思います。

よく例えに出されるのが、膝関節の過伸展(反張膝)です。膝はまっすぐな状態(完全伸展位)までしか伸びないのが無理がないのですが、その位置を越えて、さらに伸びた状態(過伸展位)までもっていってしまうのは無理が生じます。脚を横から見たとき、脚が後ろに弓のように曲がって変形している場合、膝関節の前面に過度のストレスを誘発するため、膝の痛みの原因になったりします。

膝関節の過伸展

人によっては、「膝関節過伸展=美しい」という価値観をもっていたりするため、膝関節を後ろに押してしまって膝関節の機能障害を引き起こしてしまうことがあります。「バックニー」と呼ばれており、審美競技者が陥りやすい問題のひとつとして、よく知られています。姿勢改善の世界では、「膝は前にあること」が大切だと考えられております。

膝に限りませんが、審美競技者は過剰運動<hypermobility>症候群になりがちだと思います。私は、全身の複数の関節不安定性(可動域の亢進・関節過可動)があることには、デメリットが多すぎると考えております。

頭の位置を直す場合も、「余計なことをしない」という意識が重要だと考えています。本来、自然に「うなずく」構造になっているので、それに逆らわなければ、自然と頭部はあるべき位置に動いていき、姿勢と呼吸と動きがよくなっていきます。頭は前・上へ動き、首が自由で楽な状態にバランスするようになっているからです。余計なことをするから、おかしなことになってしまうのです。

頭部のうなずき運動

声がきれいな人の動きを観察してみましょう。
①軽く微笑みつつ、唇がわずかに少しひらく。
②下の前歯が上の前歯よりもわずかに前に出る(上あごに対して下あごがわずかに前に)
③下あごが落ちて、下の前歯の後ろに舌の先が軽くつく。
④りきみなく発声する。
……というような流れが見てとれるかと思います。何より、発声と同時に脊柱が長く伸びて頭の位置が高くなっていくのがよくわかるはずです。

きれいな声が出ない人を観察すると、身体の特定部分に力を入れて(りきみ)、発音したつもりになっていたり、口をあけるときに頭の位置が低く下がってしまっていたりするものです。この特徴はそのまま、余計なことばかりしてかえってうまくいかない人たちによく見られるため、指導者講習などでよく話題にあがります。声が重い人は、見た目の雰囲気も重く、頭が沈んでしまっており、筋肉的に発音することがよく知られております。筋肉的な声は耳障りなため、さまざまなデメリットを生じるようです。

「無為自然」という老子の言葉があります。「無為」とは「作為的なことをしない」という意味だと考えております。「自然」とは自ずから然り。

"doing nothing often leads to the very best something."
「何もしない」は、いつも最高の何かにつながる(プーと大人になった僕)。

ソファやベッドでゴロゴロして何もしないという意味ではないと思います。「やるべきことをきちんとする」ということが「何もしない」ということなのだと考えております。

良寛さまの「「優游復優游(ゆうゆうまたゆうゆう)、薄(いささ)か言(ここ)に今晨(こんしん)を永くせん」という言葉が好きです。「この草庵の暮らしは、何もない無一物だが、何にとらわれることもなく、心はただ「優游」と表現するしかない。これがわたしの生だ、朝がくるごとにその「いまここに」を大切に生きるとしよう」……何にこだわることもなく、何を憂えることもない心の状態であってこそ、「何もしない」ができるのだという気がいたします。


 

2020年11月29日日曜日

「あごを引く」と姿勢がよくなります。

 頭蓋は、主に脳を容れる部分である脳頭蓋(神経頭蓋)と、主に顔面を構成する顔面頭蓋(内臓頭蓋)に分けられます。

脳頭蓋と顔面頭蓋

人類の特徴として、顔面頭蓋に比べて脳頭蓋が大きいことがあげられます。他の動物に比べ、大脳が発達しているためです。
猿と人の頭蓋

安部塾では、「顔面頭蓋は、上あご+下あご」と考えております。なので、あごを引くイメージは下図のようになります。

あごを引く

回転軸は環椎後頭関節となります。耳の穴の前上方に頭部重心がくるため、自然とうなずき運動が起きます。

うなずき運動

なので、脊柱が長く伸びて、姿勢がよくなります。

あごを引くと姿勢がよくなる

本日の新宮校集中講座、12月5日(土)の下関集中講座、6日(日)の大牟田機能運動学サークルにて詳しく解説いたします。


2020年11月19日木曜日

安部塾呼吸技法『息吹(いぶき)』を再編しております。頭と背中と腰の関係をよくすることで、呼吸が整います。

 12月より、安部塾呼吸技法『息吹(いぶき)』の伝授に力を入れることにいたしました。

呼吸と肋骨・横隔膜

呼吸と横隔膜

肺の位置イメージ

人は、完全に呼吸ができなかったら死んでしまいます。死なない程度にしか呼吸ができなかったら、さまざまな活動能力を失ってしまいます。正しく呼吸ができたとき、本来の能力を発揮させることができます。

首と肩を緊張させて固めた浅い呼吸では、「とりあえずどうにか生きることができている」という状態でしかないのではないかと思います。脇と背中を使った深い呼吸ができれば、ちゃんと生きていくことができると考えております。

直接的な方法で呼吸を変化させようとするやり方は、よくない結果につながると思います。間違ったことをやめることで身体各部の完全な調和を取り戻すことが大切だと考えます。安部塾では、呼吸は良い姿勢につき従う動きであると考え、意識で息を直接的に統制し続けようとはしません。間違いを認めて改めれば、正しい呼吸が自然と立ちあがるからです。

良い呼吸は、コア(中心)である『頭と背中と腰の関係』が良くなった二次的な結果として生じるものだとしております。

手足・腕脚をバタバタと振りまわしても、思うような効果を得ることはできません。まずは姿勢と呼吸を整えることが大切だと思います。頭と背中と腰の関係を良くすることに集中して、それができてから枝葉末節の動きをやっていきます。頭を正しい位置にもっていけるようになることを最優先にしていきたいと考えております。

12月前に、以下の集中講座で『良い姿勢が正しい呼吸を生む』というテーマで解説いたします。御参加、お待ちしております。

11月26日(木)大阪集中講座 → 詳細

11月27日(金)名古屋集中講座 → 詳細

11月28日(土)神戸集中講座 → 詳細

11月29日(日)新宮校集中講座 → 詳細

2020年11月18日水曜日

良い姿勢をつくるのは、頭の位置直しから。

 環椎後頭関節(第1頭関節)をつくる骨は後頭骨と環椎です。後頭骨下面の左右に存在する喉頭顆と環椎の上関節窩による関節であり、頭蓋の左右および前後運動に関与しています。環椎後頭関節(環椎と後頭骨の関節)には椎間板がありません。

環椎後頭関節に不具合があると、脳への血流量が半減するというデータがあるそうです。呼吸も苦しくなります。自分で意識して良い姿勢をつくろうとすると、新たに別の緊張を生むことになって環椎後頭関節の不具合が悪化し、本来のあるべき位置に頭を戻すことができなくなることが多いと思います。

姿勢の良し悪し

鍵は、環椎後頭関節の動きを意識した頭の位置直しだと思います。

頭の位置直し

呼吸のしやすさと声の出しやすさを基準に頭の位置を決めていくとよいかと思います。

2020年11月17日火曜日

首を楽にして、全身を整える~額(ひたい)を前方に出しながら頭頂を上にもっていく~頭と顔面について

 頭と顔面を混同していると、身体操作を誤ってしまいがちです。

脳頭蓋と顔面(内臓頭蓋)

頭蓋骨中心からおろした重力線は、全身の重力線よりも前方にあります。頭蓋骨重力線は、環椎後頭関節(乳様突起の奥)よりも前にあります。なので、頭は自然に「うなずく」ような構造になっています。

脳頭蓋と顔面(内臓頭蓋)

脊柱を長く伸ばそうとして、頭頂部を上にもっていかずに顎(あご)を引くとつぶれてしまい、結果的に脊柱が短くなってしまいます。乳様突起の奥を軸にしてうなずきながら、重力によって顎を引き、頭頂を上にもっていくと脊柱が長く伸びるはずです。呼吸がもっとも楽になる頭の位置が、頭が脊柱でバランスを保てる位置だと考えていいと思います。

ここで大切なのは、目(眼球)より上が頭、目より下が顔面だという感じ方です。「頭を前へ」と聞いて、顔面を前に出してしまうと首の後ろが緊張して詰まってしまいます。全身の筋活動が以上に高まり、りきみが生じて固まってしまいます。機能構造的に不安定な上に全身が短縮硬化するという状況に陥ってしまいます。

これに対し、脳頭蓋を前に出せば、過剰な筋活動が起きません。動きがとても楽に、そして美しくなります。頸部筋群(首の筋肉)の緊張が高まらないように保ち続けることが大切だと思います。

2020年11月12日木曜日

脊柱と呼吸について~吐く息で脊柱を伸ばす

 明日からの東京集中講座は、呼吸と脊柱についてみっちりやりたいと考えております。

吸う・吐くにおける脊柱の基本的な動きは下図の通りとなります。

脊柱と呼吸

頭蓋骨と頸椎の境目には「後頭下筋群」があります。他の筋肉を圧倒する数の(筋紡錘=筋の長さや張力などの変化を感知する受容器=センサー)があり、全身の姿勢バランスを微細に操作するためにはたらいています。

頭蓋骨の重心からおろした重力線は、全身の重力線よりも前方に位置します。また、頭蓋骨の重力線は環椎後頭関節(頭蓋骨と頸椎の境目)よりも前方に位置します。なので、頭は自然に「うなずく」仕組みになっています。環椎後頭関節が頭蓋骨の重心よりわずかに後方に位置すると、あごがひける仕組みです。重力によってあごがひかれると、背部にある性能が高い姿勢筋に作用して背筋が伸び、下方に向かう重力の力を打ち消すことができます。

ダメな動きをしている人の姿勢や動作を観察してみましょう。頭頸部のアライメント(配列)や筋緊張をみてみると、頭部を後屈し、筋活動を高めているのがわかります。首の後ろ側をつぶしているのです。これにより、脊柱の不安定性が生まれ全身の筋緊張を高めることになり、歩行(前方移動)の動きがきたなく歪んでいるのがわかります。この場合、エクササイズが裏目に出て、さらに崩壊が進みがちです。身体表層部の筋肉群を促通して安定性を高めてみたところで、それは外見上だけ身体が整ったにすぎません。身体内部では関節アライメントの崩壊が加速していきます。

さきほどの図でわかるように、首の後ろ側が短くなっている(緊張している)としたら、吐いたときに脊柱が短くなってしまいます。腹壁がへなへなになり、身体がつぶれ、全身が過剰緊張状態に陥ります。優れた人たちを観察してみましょう。吐く息とともに脊柱が長く伸びているのがわかると思います。首が楽に伸びている優れた人たちは、吐くときに上に伸びていきます。首を苦しく圧縮している人たちは、吐く息とともに下に縮んでつぶれていきます。

詳細は、明日からの東京集中講座にて解説いたします。

2020年11月5日木曜日

脊柱を長く伸ばすことが大切です。胸椎と肋骨が良く動かないと、他の部位が壊れます。

人間の脊柱は、胸部と仙骨部に一次弯曲(後弯)が、頸部と腰部に二次弯曲(前弯)が完成されています。直立二足歩行するためには、2種類の弯曲がどちらも必要です。体重を支え可動性を得るための身体下部の持続的強さ(耐久性)が、身体上部には呼吸や腕の動作のための穏やかで心地よい楽さが発達しました。

脊柱の弯曲

脊柱の屈曲(背中を丸める動き)は脊柱の後弯を強め、脊柱の前弯を弱めること。脊柱の伸展(背中を反らせる動き)は脊柱の前弯を強め、後弯を弱めることだということになります。前弯と後弯は相反する関係であり、どちらかの弯曲を強めると、もう一方の弯曲は弱くなります。自然な脊柱の形状変化は、吐く(呼息)で屈曲(丸まる)、吸う(吸息)で伸展(反る)であり、呼吸の形状変化は脊柱の形状変化だといことがわかります。また脊柱の形状変化は呼吸の形状変化でもあるので、脊柱屈曲の動きが呼気を生み出し、脊柱伸展の動きが吸気を生み出すこともわかります。

脊柱を長く伸ばすことを「軸伸長」といいます。脊柱全体が長くなるということは、頸部・胸部・腰部の弯曲をすべて弱めるということです。脊柱の前弯と後弯を同時に弱めることで、脊柱を長くすることができます。これにより、前弯と後弯の相反関係を回避することができます。

脊柱を長くするためには、呼吸構造の緊張と変化が必要です。声帯隔膜・横隔膜・骨盤隔膜(骨盤底筋群)が安定状態となる必要があります。胸腔と腹腔の形状が安定することで脊柱が長くなります。代償として、呼吸量が減少します。強制的に「吐く」ことが必要になります。

さて、楽に動くべき胸椎と肋骨が固まって動かないと、どうなるでしょうか?

他の部位に過剰な負担がかかり、連鎖的に壊れていきます。胸椎の機能として、伸展動作と回旋動作が重要です。胸椎全体での回旋動作角度は30~35度程度。体幹部全体の回旋動作角度は35~40°程度。つまり、体幹部での回旋は胸椎部の回旋がほとんどであるといえます。

胸椎と肋骨が動かない場合、腰椎の安定性が犠牲となります。胸椎と肋骨の動きの悪さを補うために、本来は腰椎の役割ではない回旋動作や伸展動作を強いられることになり、機能的に不安定な状態となってしまいます。

そして、胸椎と肋骨が動かないということは「呼吸ができない」ということでもあります。もうおわかりだと思いますが、「一見、動きを伴わない呼吸の練習で、なぜ首や腰が楽になるのか?」と謎の答えは、「胸椎と肋骨が楽に動くようになるため」だということです。安部塾の「息吹」は、古代製鉄における「ふいご(気密な空間の体積を変化させることによって空気の流れを生み出す器具。 金属の加工、精錬などで高温が必要となる場合に、燃焼を促進する目的で使われる道具)」のように呼吸を繰り返すことで、楽で動きやすい身体に鍛錬していく技法です。

11月の集中講座やグループレッスンで、しっかり練習していきます。

2020年11月2日月曜日

私の肋骨まわりのやわらかさ~肋骨の動きは脊椎の動き

 10月の大阪・名古屋・神戸の集中講座で、呼吸しているときの私の上部肋骨の動きを理解してもらうために、肩関節下の脇の部分に手を当てて観察してもらいました。本来は動きを感じてもらうためのものでしたが、ほとんどの人の感想は「やわらかい」というものでした。逆に言えば、ほとんどの人の肋骨は硬いということなのだと思います。

肋骨の動きは脊椎の動きです。肋骨まわりがやわらかいということは、脊柱のまわりもやわらかいということになります。脊柱まわりがコリ固まったとき、ついつい手技のみで何とかしようとしてしまいがちですが、現実的には呼吸を改善しない限り、コリ固まりから解放されることはないと思います。

吸う・吐く

首を固めないように解放して自然に呼吸できている人は、脊柱と肋骨まわりの筋肉を呼吸の力でほぐすことができます。11月も、呼吸の解説をしていきたいと思います。

11月7日(土)下関集中講座

11月8日(日)機能運動学大牟田サークル