セラピーのためのポリヴェーガル理論 デブ・テイナ 春秋社 |
セラピーのためのポリヴェーガル理論 デブ・テイナ 春秋社 より引用します。
同僚やクライアントに「ポリヴェーガル理論」を教えるとき、私は、「あなたたちは、安全の科学、つまり人生に恋をし、生きることにまつわるリスクを負っても、なおかつ生きることは素晴らしいと感じるための科学を学んでいるのだ」、と伝えます。ポリヴェーガル理論は、クライアントが、「可動化」、「つながりの欠如」、「社会的交流」という継続的なサイクルを、どのように、そしてなぜ移動するかについての、生理的、心理的理解を提供します。
ポリヴェーガル理論のレンズを通して、私たちは、自律神経系がクライアントの安全の体験を形成し、人とつながる能力に影響を与える、ということを理解します。自律神経系は、私たちが何者であるか、または誰であるか、ではなく、私たちがどのような状態であるか、を伝えることによって、日常生活のさまざまな出来事に反応します。
自律神経系は、私たちの生理学的状態を変えることで、リスクを管理し、つながりのパターンを生み出します。多くの人々にとって、こうした生理学的状態の変化は、ごく小さいもので、なおかつ、もし大きな状態の変化が生じたときには、比較的早期に調整された状態に戻ることができるレジリエンスを備えています。いっぽう、トラウマは、安全なつながりを実現するための自律神経回路を構築するプロセスを遮り、調整とレジリエンスの発達を妨げます。トラウマを持つクライアントは、より激しい、極端な自律神経反応を体験します。これは、関係を調整し安全を感じる能力に影響します。ポリヴェーガル理論を理解すると、クライアントの行動は、生き残りをかけて反射的に採用した適応的な方法であり、それが神経系に深く染み込んでしまっているものなのだということがわかります。
トラウマは、人とつながるパターンを防衛的パターンに置き換えてしまい、そのため他者と関わる能力を損ないます。それが未解決の場合、早期に適応したこれらの生存反応は、習慣的な自律神経系のパターンになります。トラウマを受けたクライアントの場合は、生存欲求が、他者とのつながりへの渇望とぶつかりあってジレンマが生じています。このとき、ポリヴェーガルのレンズを通したセラピーは、彼らの自律神経系がうまく作動する方法を再構築することを可能にするのです。
引用ここまで (ⅸ~ⅹP)
※トラウマ=個人で対処できないほどの圧倒されるよう な体験によってもたらされる心の傷のことです。 トラウマとな る体験(外傷体験)によってさまざまな心身の反応が起こる。
※ジレンマ=俗に、相反する二つの事の板ばさみになって、どちらとも決めかねる状態。
※レジリエンス=困難をしなやかに乗り越え回復する力(精神的回復力)。
トラウマの症状に、否定的な認知、周囲との疎隔感や孤立感を感じ、陽性の感情(幸福感、愛情など)がもてなくなるというような、認知と気分の陰性の変化があります。いらいら感、過剰な警戒心、ちょっとした刺激にもひどくビクッとするような驚愕反応、集中困難、睡眠障害などがみられます。怒りが爆発しして、暴力を振るう。他者を傷つけたり、物を壊すなどの行動をとることもあります。筋肉の震え、頭痛、腹痛、寒気、吐き気、痙攣、めまい、発汗、呼吸困難などの症状が現れます。
これらの反応は防御的な反応であり、負の感情はスーパーフィシャル・フロントラインの収縮で現れます。
SFLの短縮と驚愕反応 |
驚愕反応 |
そんなわけで、頭部前方位姿勢の原因のひとつにトラウマがあるわけですが、私たちの神経系は可能な限り効率を高めることを好むため、同じ姿勢を何度も繰り返すと、その姿勢に関係する筋肉が常に部分的に収縮した状態を維持し始めます。これは筋肉の記憶を発達させるプロセスです。時間と意識的な脳力を節約できる代償として、慢性的な筋肉の緊張、感覚運動意識の低下、そして多くの健康上の問題を引き起こすことになります。