2021年6月1日火曜日

水平に体軸を回旋させるために必要な知識

健常者が水平面状で全身を右回旋したときの
頭頸部、体幹、股関節筋の典型的な活動パターン

■腹斜筋の「回旋共同筋」としての体幹伸展の作用
 
外・内腹斜筋は体幹の主要回旋筋です。二次的な体軸回旋筋としては、同側の広背筋、より斜走する繊維で構成される同側の腸肋筋、さらに対側の横突棘筋があります。これらの二次的な体軸回旋筋は効果的な体幹伸筋でもあります。強力な体軸回旋中、これらの伸筋は腹斜筋群の力強い体幹屈曲能力を打ち消すか中和することができます。この中和能力がなければ、強力な体軸回旋に体幹屈曲が自動的に組み合わさって起こることになるでしょう。前述の伸筋は腹斜筋群による体幹屈曲に抵抗しますが、体軸回旋トルクにも寄与します。

 多裂筋は体軸回旋中、腰部に重要な伸展安定性をもたらします。腰部の椎間関節や椎間板の病変はこれらの筋群の弱化、疲労、反射抑制と関連があるかもしれません。体軸回旋中に多裂筋の適切な活動がなければ、理論上、部分的に抵抗のなくなった腹斜筋が、脊柱基部にわずかであるが好ましくない屈曲傾向をつくりだします。

■頭部と頸部におけるすぐれた協調運動:目、耳、鼻の位置の最適化

 頭頸部は体軸骨格中のどこよりも大きな3次元運動が行なえます。十二分に大きな運動は、目、耳、鼻の空間的に最適な位置づけのために必須です。そのためには全運動面の運動が同じように重要ですが、以下のセクションでは水平面の運動に焦点を当てます。

 上図に、頭頸部の右方向への体軸回旋範囲を最大にするために使われる筋の相互作用の例を示す全身運動を示しました。頭頸部の完全な体軸回旋が目に180°以上の視野を供給することに注目してください。右方向への回旋は、左胸鎖乳突筋と右僧帽筋、右頭板状筋と頸板状筋、頭最長筋のような右上部脊柱起立筋、そして多裂筋のような左横突棘筋の同時活動によって起こります。図には示されていませんが、後頭下筋群の一部(つまり、右大後頭直筋と右下頭斜筋)は環軸関節を積極的に調整しています。

 ここにあげた筋の活動によって、頭頸部に必要とされる回転パワーや調節と同時に、前額・矢状面の双方における頭頸部の安定化がもたらされます。たとえば、頭・頸板状筋、僧帽筋、上部脊柱起立筋による伸展能力は胸鎖乳突筋の屈曲能力によって中和されます。さらに、左胸鎖乳突筋の左側屈曲能力は右頭・頸板状筋の右側屈能力によって中和されます。

 頭頸部の完全な体軸回旋は、体幹や下肢までひろがる筋の相互作用を必要とします。たとえば、左右の腹斜筋の活動を考えてみましょう。腹斜筋は頭頸部の構造上の基部となる胸椎部を回転するのに必要なトルクの多くを供給します。さらに、脊柱起立筋と横突棘筋は体幹後面全体を活動させ、腹斜筋による強い体幹屈曲傾向を中和します。肩関節がほかの筋によってしっかりと固定されていれば、広背筋は体幹を同側に回旋します。左大臀筋は骨盤とそれにつながる腰仙部を相対的に固定された左大腿に対して積極的に右へと回旋させます。

※「筋骨格のキネシオロジー 医歯薬出版社」より