2023年3月31日金曜日

足のやわらかさが、歩行時などの衝撃吸収の要となります。足が硬い人は、衝撃を吸収できません。

Truss mechanism(トラス・メカニズム=トラス機構)

Truss mechanism(トラス・メカニズム=トラス機構)

 「トラス」は建築用語で、構成される三角形を単位とした骨組構造のひとつです。

 足部は、縦アーチ(三角の二辺)と足底腱膜(三角の底辺)で構成されるトラス構造によって荷重を分散しています。この三角構造を(トラス・メカニズム)といいます。アーチを構成する伸縮しない底辺以外の2辺を構成する骨、関節、靱帯と伸縮する足底腱膜が底辺の三角形を描いています。

 足部が荷重を受けると、足底腱膜が遠心性に伸張し、アーチを低下させます。トラス・メカニズムは、歩行周期における立脚初期の踵接地から立脚中期にかけて作用し、足部接地時の衝撃緩和や立脚中期の合理的な荷重の分散と吸収を担っています。立脚中期では、距骨下関節および横足根関節(ショパール関節)が回内(外がえし)し、足根中足関節(リスフラン関節)が背屈するため、この運動連鎖によって足底腱膜はさらに伸張されます。これによって、トラス構造の重要な役割である衝撃吸収を最大限に発揮することが可能となります。

 まとめると、

  • 歩行時など、荷重がかかったとき、アーチの弾性によって衝撃を吸収する。
  • 底辺の足底腱膜が伸びながらアーチの低下にブレーキをかける(足底腱膜の張力)
  • 大きな筋力を必要とせずにアーチを保つことができる。 

過去記事→Windlass mechanism(巻き上げ機構)ウインドラス・メカニズムと内側縦アーチ。足底腱膜が弛緩した扁平足例では、アーチ挙上が出現しない。

 足が硬い人は、衝撃を吸収できません。かかとから足趾先に向かって扇状に広がる半円形の弓状の縦アーチは、複数の可動骨を経由することで柔軟性を得て、強い衝撃も吸収することができます。骨と骨がくっついていたら足が硬くなり、機能しなくなrます。

また、足の個々の骨を結んでいる靭帯には、「位置覚」を感じる神経センサーがあり、バランスをとるための情報を得ています。足が正常に機能していれば、ごくわずかな傾きも検知することができます。

4月のワークショップで解説します。

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Windlass mechanism(巻き上げ機構)ウインドラス・メカニズムと内側縦アーチ。足底腱膜が弛緩した扁平足例では、アーチ挙上が出現しない。

 運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹 メジカルビュー社より引用します。

足部の内側縦アーチの構成要素と巻き上げ機構(Windlass mechanism)
足の機能解剖 図説足の臨床 メジカルビュー社

足部の内側縦アーチの構成要素

 足部には大きく3つのアーチが存在するが、そのなかでもっとも重要なのが内側縦アーチである。後方から踵骨、距骨、舟状骨、内側楔状骨、母趾中足骨により構成され、特に舟状骨はこのアーチの要石となる。このアーチが高すぎる足は凹足、低すぎる足は扁平足と呼ばれる。

Windlass mechanism(巻き上げ機構)

 Windlass mechanismとは、母趾中足趾節関節(MTP)関節を過伸展することにより足底腱膜が遠位に巻き取られ、その結果、内側縦アーチが挙上する現象をいう。足底腱膜が弛緩した扁平足例では、このようなアーチ挙上が出現しない。

引用ここまで
ウインドラス・メカニズム(巻き上げ機構)によるアーチ挙上
 
母趾球で立った時のウインドラス・メカニズム

 足趾を反らせるとアーチが引き上げられて足の剛性が高まり、地面を蹴る足先の力が生まれます。中足趾節(MTP)関節伸展に伴う足底腱膜の巻き上げにより内側縦アーチが緊張して、足部の剛性が高まるメカニズムをウィンドラス機構といいます。

 距骨下関節が回外すると、横足根関節の縦軸と車軸の交差が強まります。この結果、可動性が制限され、強固な足部を形成します。ウインドラス機構とともに機能して、歩行・走行時の蹴り出しの力を高めています。

 ウインドラス機構が正常に機能していない状態で、下肢の過剰に動かすと足が壊れます(足底腱膜炎など)。ウインドラス機構が正常に機能している人の足は正常な足部アライメントを示し、安定した高い剛性が確保できています。一方、ウインドラス機構が機能していない人の足は回内足(pronated foot)のアライメントを示していることが多く不安定で、足部に剛性の欠如が生じてしまいます。

 距骨下関節の過回内を防止し、適度な回外位を保つ訓練が有効です。母趾が伸展し、十分に底屈し距骨下関節レベルで適正回外位を保持できるように意識します。真っ直ぐゆっくり遠心的に踵をおろす訓練も有効です。

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2023年3月30日木曜日

足裏(足底)・足の甲(足背)・すね・ふくらはぎを、ボディーローラーミニとリラクゼーションボールでほぐす。

  トリガーポイントと筋肉連鎖 GAIABOOKS より 引用します。

表層部にある足の内在筋

深層部にある足の内在筋


下腿の深層筋



脛の表層筋

ふくらはぎの筋

引用ここまで

 足関節(または距腿関節)は、足の骨と下腿骨を結んでいる関節単位です。ヒトが立位と2足歩行に適応進化したため、足部の静力学と歩行の展開において重要な役割を果たすようになりました。

 距腿関節を動かし安定化させうる筋は、すべて多関節筋であり、それは足のすべての運動を行います:いかなる筋も距骨には付着しません。いかなる筋も、足根骨の第1列には付着しないのと同じように。

 運動筋は距踵舟関節、および距骨下関節を介して、距腿関節に作用します。

 運動筋は、4つの群に分類されます。
  • 前方筋群(背屈筋)
  • 外側筋群(底屈筋と外返し筋)
  • 内側筋群(内返し筋)
  • 後方筋群(底屈筋と内返し筋)
(内側筋群と後方筋群は、《表層後方筋群》と《深層後方筋群》として記載することもできます)

※参考文献: 図解 関節・運動器の機能解剖 下肢編 共同医書出版社

 安部塾では、足まわりと下腿まわりを、ボディローラーミニとリラクゼーションボールでほぐします。面白いことに、真っ先に首の緊張が抜けます。足関節と顎関節は相互に影響を与えあっているからです。首が楽な人の体重は、足の母趾と2趾の真中のラインに落ちています。首が苦しい(硬い)人は、小指側のラインにに重心が落ちてしまうため、身体のバランスを取りにくくなります。首が楽な人は脛骨に、苦しい人は腓骨に乗っています。

 足首のアライメントが崩れてしまうと、膝関節→股関節→脊柱と身体バランスの連鎖が崩壊します。もちろん、肩関節→肘関節→手関節への連鎖も崩れます。

 地道に足まわりの機能を改善すると、多方面に好影響があります。

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2023年3月29日水曜日

肩甲骨の解放。体幹から分離することで、肩甲骨は体幹に対して十分に自由に動く。

   図解 関節・運動器の機能解剖 上肢脊柱編 共同医書出版社 より引用します。

 肩関節は、上肢と体幹を連結している。

 《上肢の大部分は、特殊化した高度な機能に対応するため、系統発生学的発達本来の目的に沿ってきた、すぐれた高度な働きと自由な動作の連結を満足させ、同時に運動において必要な力と正確性を確保するために十分な安定のある運動単位の実現が、人類にとって、必要であった。この一般的目的~大きな動きをする器官の実現~は、体幹と連結する上肢と、骨盤と連結する下肢の比較において、それは特に明白になる。》

1 肩の運動域の増大と正確性の向上は、2つの力学的方法により獲得される。

1-1 肩甲ー上腕関節運動域の増大

 関節の柔軟性の増大には制限がある。なぜならば、運動域がある限度を越えれば、関節は《不安定》となるからである。

 そうなれば関節表面は、わずかな運動においてさえ接触を失い脱臼してくる。このため、脱臼を避けるために、関節の周囲には多数の筋が必要になってくる。つまり関節機構は複雑となり、それゆえ脆弱性を伴い、それを防ぐためには、筋をはじめとする複雑な協調機構のエネルギー消費の負担も大きくなる。

 肩関節の他動機構には安定上限界があり、その安定性は筋によってのみ保持される。人間のいかなる他の関節複合体も、このような筋のみによる安定化機構は存在しない。

 関節を効果的に働かせるために必要な腕の運動域を得るために、《自然》は、お互い荷重しあう上腕骨頭と相対する肩甲骨の両方を動かすことにより運動連鎖を実現したのである。

※運動連鎖:複合関節運動単位を形成する、一連の多数の関節の組み合わせ。

1-2 肩甲骨の解放

 系統発生学の発達の第1段階(両生類)では、肩甲骨は、体幹の強固な棒のごとき骨による連結にとどまっており、体幹から分離することで、肩甲骨は体幹に対して十分に自由に動くことができるようになった。体幹に対するこの運動は、肩甲ー上腕関節に伴い、それゆえ、肩甲骨の真の解放が存在するこの運動の中に、その解剖学的な複雑性と相対的な脆弱性があるのである。

肩甲骨の解放

2 このような特性を有する関節複合体が効果的に機能するためには、以下の解剖学的機構が必要となってくる。

2-1 肩甲ー上腕関節の力学的構造は、他動的に制限されるべきではなく、関節周囲筋により自動的に正確に制御されなければならない。

肩関節複合体における筋の自動制御

2-2 錐体様の胸郭に対する肩甲骨の移動行程が、可能にされ、導かれなかればならない。そのためには、以下のものを必要とする。

  • 滑走面(肩甲ー胸郭の仮性関節)
  • 運動の調整と制御機構
  • 車の前部車体受けの中の、弯曲した棒の役を果たす調整軸としての鎖骨:鎖骨はある種の金属ほどには柔軟でなく、その両端において肩鎖関節と胸鎖関節に連結している。
  • 肩甲骨と鎖骨の位置の制御と、その運動を誘導する筋群

2-3 完全な運動の協調において、関節複合体のすべての要素を機能的に完全な状態におくことが必要である。なぜなら、腕の各運動は、肩関節複合体のすべてを動かさせ、多数の関越・筋要素を同時に機能させるからである。本来、正常の生活においては、単純な運動(短関節)は現実には存在せず、基本的運動単位を理解し、正確な徴候学を分析できるように便宜的に分離しているにすぎない。

 引用ここまで

 肩甲骨が解放されていてはじめて、腕の各運動は、肩関節複合体のすべてを動かさせ、多数の関越・筋要素を同時に機能させることができます。

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2023年3月28日火曜日

正常の足においては、無意識的に「内転、回外、底屈の組み合わせで内返し」「 外転、回内、背屈の組み合わせで外返し」という肢位をとる。

   図解 関節・運動器の機能解剖 下肢編 共同医書出版社 より引用します。

2 屈曲ー伸展運動は、距腿関節で行われる。

 多少の屈曲ー伸展運動は、足部の他の関節部位……とりわけショパール関節でもなされうる。しかし、それらの動きは無視できるものとみなして検討する。

屈曲(背屈)ー 伸展(底屈)

2-1 屈曲(背屈)とは、下腿前面と足背により形成される角度を閉じることである。

 その平均値は20度である。しゃがみ動作の多いアジア人では、背屈は45°、またはそれ以上に達することがある。

2-2 伸展(底屈)とは、下腿前面と足背により形成される角度を開くことである。

 その平均値は40°である。個人差が大きい(30~60°)。

2-3 これらの運動は、矢状面と15°前外方に開いた垂直面で行われる。

 屈曲ー伸展の運動面は、(後下方に位置する)外果と(それより前外方に位置する)内果とを通る軸に垂直である。これは、足関節の機能のおおまかな見方にすぎないが、実際上はこれで十分である。

 背屈の際、足尖が自然と上外方を向き、一方底屈の際は下内方を向くことを、自分自身で確かめることができる。

2-4 相対的肢位、つまり解剖学的肢位においては下腿に垂直である。

 しかし、距骨だけを考慮すると、距骨の(体部、頸部、頭部を通る)前後の長軸は、解剖学的基本肢位では脛骨軸に垂直ではなく、15°底屈している。

3その他の足の運動

 分析上、距腿の運動(底屈、および背屈)からの他の運動を区別して考える場合でも、他の運動を考慮する必要がある。なぜなら、実際は他の運動も距腿の運動と組み合わさっているからである。足部と足関節は、多関節の組み合わせであり、その中で遠位(足部)の関節が運動筋が近位(距腿)の関節に多少とも影響を与える。

内転ー外転

3-1 内転と外転

  • これらの運動は、(下腿の垂直軸に直交する)水平面で行われる。
  • 内転では、足尖は内方を向く(体の対称面、または矢状面に近づく)。
  • 外転では、足尖は外方を向く(体の対称面より遠ざかる)

回外ー回内

3-3 回内と回外

  • これらの運動は、前額面と足部の矢状軸(第2趾列を通る軸)に垂直な面で行われる。
  • 回外では、足尖は内方を向く傾向がある。
  • 回内では、足尖は外方を向く傾向がある。

内返しー外返し

3-3 正常の足においては、無意識的に運動の組み合わせがおこっている。

  • 内転、回外、底屈が組み合わされて、足は内返しという肢位をとる。
  • 外転、回内、背屈が組み合わされて、足は外返しという肢位をとる。

外反と内反

3-4 距骨(または後足部)では、回外、および回内は、一般的には内反、および外反と呼ばれる。

  • 後足部の回外(内反)は、踵骨の外側面を地面につけようとする動きである。
  • 後足部の回内(外反)は、踵骨の内側面を地面につけようとする動きである。

 内反、および外反の動きは、ほとんどいつも内転、および外転の動きと関連している。その意味から、これらの運動は次のように定義されることもある。

  • 内反:底屈なしで、内転と回外が組み合わさった運動。
  • 外反:背屈なしで、外転と回内が組み合わさった運動。

 引用ここまで

 安部塾では、ボディローラーミニでふくらはぎをほぐすとき、内返しと外返しを使います。内返しではふくらはぎの内側面が、外返しではふくらはぎの外側面がローラーに触れます。

2023年3月27日月曜日

尺骨が固定された場合、回内ー回外軸は第5中手骨(小指)を通る。尺骨が動きうる場合、回内ー回外軸は第3中手骨(中指)を通る。

 前記事 → 回内位では、尺骨は動かず、前腕の固定中心軸を形成するが、橈骨は尺骨のまわりを巻きつくように動き、尺骨の前方に交叉してくる。

   図解 関節・運動器の機能解剖 上肢・脊柱編 共同医書出版社 より引用します。

肘が屈曲位にある場合、回内ー回外運動軸は第3中手骨を通過する。

1 尺骨が固定された場合、回内ー回外軸は第5中手骨を通る。

  • 手が基本肢位にあれば、第5指の軸は前腕の機能軸の延長上に位置する。この場合、手の回内ー回外は尺骨の橈側縁のまわりで行われるであろう(図Ⅳ及び図Ⅳ-2-2)。
  • しかし、この種の運動は現実的ではない:もし、このような回内-回外が行われるならば、ドライバーや鍵を回すことはたいへん困難になるであろう。
  • 実際は、回内ー回外はこのようにはなされない。尺骨は、肘が伸展位にあるときのみ固定される。上腕骨の回転が回内ー回外運動に伴うことで、この運動を実用的なものにしている。
回内-回外軸の偏位

回内ー回外軸(肘伸展位と肘屈曲位)

2 尺骨が動きうる場合、回内ー回外軸は第3中手骨を通る。

 肘が屈曲位にあるときは、尺骨の滑車切痕、上腕骨滑車の継手、靱帯の緊張は尺骨のわずかの側方運動さえも防ぐほどは強くはない。尺骨の腕は長いので、尺骨頭は大きく偏位しうる。

2-1 橈骨と尺骨の遠位端は、回内ー回外軸において、互いに反対方向に円弧を描く。

  • 回外位から中間位までの工程において、尺骨頭は背側(肘の部分では2~3°の尺骨の伸展)と外方(4~5°の尺骨の外転)へ偏位する。
  • 運動が中間位から回内位に進むと、尺骨頭は外方、腹側に転位し続ける。
  • 尺骨頭は、このように中心が第3指軸上にある円弧を描く。回外から回内においては尺骨の外転は8~10°である(図Ⅳおよび図Ⅳ-2-2参照)。

2-2 このように手においては、回内ー回外は第3中手軸のまわりで行われる。

第3中手骨は、手の機能的長軸である。
ネジや鍵を回すためには、回転軸が第2指を通る必要があるか、第3中手骨を通る回内ー回外運動軸に一致させるためには、手をわずかに尺側に傾斜させれば可能である(図Ⅳ-2-2参照)。

2-3 この関節複合体(前腕、橈尺関節、骨間膜)の構築の安定性は十分に大きく、それゆえ手の正確で適合した運動を可能にしている。


日常のある種の動作における回内ー回外運動

  • 家の鍵をあけるためには手を回外位にもってこなければならない:この場合、肩の作用はこの運動を補強しえない。
  • ネジを正確に締めるためには、前腕の運動だけが利用される。しかし、力強くネジを締めるためには、前腕を中間位に固定し、肘をまず体幹から離し、次に腕を内転位にもってくることで、回外運動を補強運動を補強することが必要である。
  • 食事をとるためには、回内ー回外の巻き戻しを利用している。食べ物を拾い集めるときには、手を回内位にし、肘を伸ばしている。食べ物を口にもっていくには、手は回外位、肘は屈曲位にしなければならない。この場合、上腕二頭筋は肘の屈曲筋および回外筋として主要な働きをする。
  • もし、前腕が回外位で固定されていると、いかなる形の代償運動も、手を回内位へもっていくことはできない。
  • 一方、前腕が中間位で固定されていると、腕の外転による代償で、手を回内位にもっていくことができる。つまり、《肩とともに回内する》といえる。前腕の固定の際には、拘縮のおそれのため、前腕を中間位にしておく必要がある。

 引用ここまで

 前腕の回内ー回外運動は、とても重要な運動であるにも関わらず、あまり重要視されていません。例えば、猫背を改善したいのであれば、前腕の回外運動からの運動連鎖を意識しながら息を吸えば、自然と胸がひろがって背中が伸びます。また、肩が痛いとき、前腕の回内外の可動域テストをしてみると、回外に制限があることがあります。なので、前腕の筋膜リリースを施して回外制限を解除すると、いきなり肩の痛みが消えたりします。

 トーマス先生によると、「肩・前腕・手の回旋能力には多数のラインの切換が必要であり、これによって運動における可動性と安定性が増す」とされています。なので、アームラインを意識しつつ、肘・肩の2側面からのアプローチを行うことで運動連鎖の改善を試みることで、動作時における肩に対する負担を最小限にすることができると考えています。

 肘の機能的な動きが失われると、上肢全体の機能が障害されます。4月のワークショップは、前腕の機能改善による全身の動きの改善の解説をします。

回内位では、尺骨は動かず、前腕の固定中心軸を形成するが、橈骨は尺骨のまわりを巻きつくように動き、尺骨の前方に交叉してくる。

 前記事 → 前腕がその軸に対して回転する回内ー回外運動は、上肢の発達の中で出現してきた運動であり、手のいろいろな表現を行ううえで不可欠である。

前腕の回内と回外

  図解 関節・運動器の機能解剖 上肢・脊柱編 共同医書出版社 より引用します。

Ⅱ 回内ー回外機構の分析

1 回内ー回外の運動軸

 回外位では、橈骨と尺骨は同一平面上にあり、おおよそ平行位にある。

 回内位では、尺骨は動かず、前腕の固定中心軸を形成するが、橈骨は尺骨のまわりを《巻きつくように》動き、尺骨の前方に交叉してくる。

  • 橈骨上端(橈骨頭)は、橈骨長軸を回転する。
  • 橈骨下端は、尺骨下端の周囲に円弧を描く。

 このように、回内ー回外の運動軸は、橈骨頭中心と尺骨下端中心とを結ぶ線で示され、この軸は下外方に斜めに向いている。回内ー回外を説明する図は、肘90°屈曲位の前腕を上から眺めた図であるが、解剖学的に記述しやすいという理由で肘伸展位で下垂した前腕のごとく描かれている。

回内ー回外

2 回内ー回外運動を可能にするためには、すくなくとも次の3つの解剖学的条件が満たされなければならない。

2-1 近位および遠位橈尺関節は、旋回運動を可能にするような解剖学的形態をもたなければならず、回内ー回外運動の十分なる可動域を可能にさせなければならない。この2つの橈尺関節の1つが拘縮すると、回内ー回外運動は制限される。

2-2 橈骨と尺骨は、《交叉》をするために特殊な形態をもたなければならない。

  • もし橈骨がまっすぐであると仮定すれば、回内運動は非常に制限される。なぜならばこの場合、橈骨が尺骨前方へ交叉してくると、この2つの骨の間においてかなり厚い筋で満たされてくるので、より早期に制限されることになる。この2つの棒の一方が他方を回転できるためには、それがまっすぐだとすると、それらの両端は離れている必要があり、このことは、実際の関節では脱臼を意味する。ゆえに、橈骨がまっすぐであるという仮説は否定される。
  • 次に、回内を可能にするためには橈骨は直線ではなく弯曲していると仮定する:この場合、《回旋誘導弯曲》はかなり強く内側に曲がっていて、前方に凹状の形が必要である。この橈骨の形態は、自転車のクランクハンドルと比較できる。また、それは短い柄をもつ鉈ガマと似ている。同様の理由で、尺骨はまっすぐではない:その上端は大きく、また骨幹部の下方1/4は外方へ凹状をなしている。(尺骨の遠位関節面は、尺骨の長軸に関して、外方腹側に反っている)

橈骨の回内誘導弯曲形

2-3 前腕の2本の骨は、同じ長さを有していなければならない:もし、片方が短ければ、橈尺関節の回転点の1つが破綻するか、運動軸が偏位することにより、回内ー回外は不可能となる。

 引用ここまで。

 「回内位では、尺骨は動かず、前腕の固定中心軸を形成するが、橈骨は尺骨のまわりを巻きつくように動き、尺骨の前方に交叉してくる。」という知識があるかないかで、腕の動きの質がまるで違ったものとなります。正しく前腕を回内することができないために、四つん這い位で手をついて身体を支えたときに手首が痛いとか、肩が下がらずに浮き上がってリキんでしまうとか、肘関節が過伸展して反張してしまうとか、いろいろな問題が起きてしまいます。

 橈骨が尺骨のまわりを巻きつくように動き、尺骨の前方に交叉してくると、リラックスした状態でありながら安定した動きができるようになります。

 さらに続きます。