前記事 → 前腕がその軸に対して回転する回内ー回外運動は、上肢の発達の中で出現してきた運動であり、手のいろいろな表現を行ううえで不可欠である。
前腕の回内と回外 |
図解 関節・運動器の機能解剖 上肢・脊柱編 共同医書出版社 より引用します。
Ⅱ 回内ー回外機構の分析
1 回内ー回外の運動軸
回外位では、橈骨と尺骨は同一平面上にあり、おおよそ平行位にある。
回内位では、尺骨は動かず、前腕の固定中心軸を形成するが、橈骨は尺骨のまわりを《巻きつくように》動き、尺骨の前方に交叉してくる。
- 橈骨上端(橈骨頭)は、橈骨長軸を回転する。
- 橈骨下端は、尺骨下端の周囲に円弧を描く。
このように、回内ー回外の運動軸は、橈骨頭中心と尺骨下端中心とを結ぶ線で示され、この軸は下外方に斜めに向いている。回内ー回外を説明する図は、肘90°屈曲位の前腕を上から眺めた図であるが、解剖学的に記述しやすいという理由で肘伸展位で下垂した前腕のごとく描かれている。
回内ー回外 |
2 回内ー回外運動を可能にするためには、すくなくとも次の3つの解剖学的条件が満たされなければならない。
2-1 近位および遠位橈尺関節は、旋回運動を可能にするような解剖学的形態をもたなければならず、回内ー回外運動の十分なる可動域を可能にさせなければならない。この2つの橈尺関節の1つが拘縮すると、回内ー回外運動は制限される。
2-2 橈骨と尺骨は、《交叉》をするために特殊な形態をもたなければならない。
- もし橈骨がまっすぐであると仮定すれば、回内運動は非常に制限される。なぜならばこの場合、橈骨が尺骨前方へ交叉してくると、この2つの骨の間においてかなり厚い筋で満たされてくるので、より早期に制限されることになる。この2つの棒の一方が他方を回転できるためには、それがまっすぐだとすると、それらの両端は離れている必要があり、このことは、実際の関節では脱臼を意味する。ゆえに、橈骨がまっすぐであるという仮説は否定される。
- 次に、回内を可能にするためには橈骨は直線ではなく弯曲していると仮定する:この場合、《回旋誘導弯曲》はかなり強く内側に曲がっていて、前方に凹状の形が必要である。この橈骨の形態は、自転車のクランクハンドルと比較できる。また、それは短い柄をもつ鉈ガマと似ている。同様の理由で、尺骨はまっすぐではない:その上端は大きく、また骨幹部の下方1/4は外方へ凹状をなしている。(尺骨の遠位関節面は、尺骨の長軸に関して、外方腹側に反っている)
橈骨の回内誘導弯曲形 |
2-3 前腕の2本の骨は、同じ長さを有していなければならない:もし、片方が短ければ、橈尺関節の回転点の1つが破綻するか、運動軸が偏位することにより、回内ー回外は不可能となる。
引用ここまで。
「回内位では、尺骨は動かず、前腕の固定中心軸を形成するが、橈骨は尺骨のまわりを巻きつくように動き、尺骨の前方に交叉してくる。」という知識があるかないかで、腕の動きの質がまるで違ったものとなります。正しく前腕を回内することができないために、四つん這い位で手をついて身体を支えたときに手首が痛いとか、肩が下がらずに浮き上がってリキんでしまうとか、肘関節が過伸展して反張してしまうとか、いろいろな問題が起きてしまいます。
橈骨が尺骨のまわりを巻きつくように動き、尺骨の前方に交叉してくると、リラックスした状態でありながら安定した動きができるようになります。
さらに続きます。