前記事 → 回内位では、尺骨は動かず、前腕の固定中心軸を形成するが、橈骨は尺骨のまわりを巻きつくように動き、尺骨の前方に交叉してくる。
図解 関節・運動器の機能解剖 上肢・脊柱編 共同医書出版社 より引用します。
肘が屈曲位にある場合、回内ー回外運動軸は第3中手骨を通過する。
1 尺骨が固定された場合、回内ー回外軸は第5中手骨を通る。
- 手が基本肢位にあれば、第5指の軸は前腕の機能軸の延長上に位置する。この場合、手の回内ー回外は尺骨の橈側縁のまわりで行われるであろう(図Ⅳ及び図Ⅳ-2-2)。
- しかし、この種の運動は現実的ではない:もし、このような回内-回外が行われるならば、ドライバーや鍵を回すことはたいへん困難になるであろう。
- 実際は、回内ー回外はこのようにはなされない。尺骨は、肘が伸展位にあるときのみ固定される。上腕骨の回転が回内ー回外運動に伴うことで、この運動を実用的なものにしている。
回内-回外軸の偏位 |
回内ー回外軸(肘伸展位と肘屈曲位) |
2 尺骨が動きうる場合、回内ー回外軸は第3中手骨を通る。
肘が屈曲位にあるときは、尺骨の滑車切痕、上腕骨滑車の継手、靱帯の緊張は尺骨のわずかの側方運動さえも防ぐほどは強くはない。尺骨の腕は長いので、尺骨頭は大きく偏位しうる。
2-1 橈骨と尺骨の遠位端は、回内ー回外軸において、互いに反対方向に円弧を描く。
- 回外位から中間位までの工程において、尺骨頭は背側(肘の部分では2~3°の尺骨の伸展)と外方(4~5°の尺骨の外転)へ偏位する。
- 運動が中間位から回内位に進むと、尺骨頭は外方、腹側に転位し続ける。
- 尺骨頭は、このように中心が第3指軸上にある円弧を描く。回外から回内においては尺骨の外転は8~10°である(図Ⅳおよび図Ⅳ-2-2参照)。
2-2 このように手においては、回内ー回外は第3中手軸のまわりで行われる。
第3中手骨は、手の機能的長軸である。
ネジや鍵を回すためには、回転軸が第2指を通る必要があるか、第3中手骨を通る回内ー回外運動軸に一致させるためには、手をわずかに尺側に傾斜させれば可能である(図Ⅳ-2-2参照)。
2-3 この関節複合体(前腕、橈尺関節、骨間膜)の構築の安定性は十分に大きく、それゆえ手の正確で適合した運動を可能にしている。
日常のある種の動作における回内ー回外運動
- 家の鍵をあけるためには手を回外位にもってこなければならない:この場合、肩の作用はこの運動を補強しえない。
- ネジを正確に締めるためには、前腕の運動だけが利用される。しかし、力強くネジを締めるためには、前腕を中間位に固定し、肘をまず体幹から離し、次に腕を内転位にもってくることで、回外運動を補強運動を補強することが必要である。
- 食事をとるためには、回内ー回外の巻き戻しを利用している。食べ物を拾い集めるときには、手を回内位にし、肘を伸ばしている。食べ物を口にもっていくには、手は回外位、肘は屈曲位にしなければならない。この場合、上腕二頭筋は肘の屈曲筋および回外筋として主要な働きをする。
- もし、前腕が回外位で固定されていると、いかなる形の代償運動も、手を回内位へもっていくことはできない。
- 一方、前腕が中間位で固定されていると、腕の外転による代償で、手を回内位にもっていくことができる。つまり、《肩とともに回内する》といえる。前腕の固定の際には、拘縮のおそれのため、前腕を中間位にしておく必要がある。
引用ここまで
前腕の回内ー回外運動は、とても重要な運動であるにも関わらず、あまり重要視されていません。例えば、猫背を改善したいのであれば、前腕の回外運動からの運動連鎖を意識しながら息を吸えば、自然と胸がひろがって背中が伸びます。また、肩が痛いとき、前腕の回内外の可動域テストをしてみると、回外に制限があることがあります。なので、前腕の筋膜リリースを施して回外制限を解除すると、いきなり肩の痛みが消えたりします。
トーマス先生によると、「肩・前腕・手の回旋能力には多数のラインの切換が必要であり、これによって運動における可動性と安定性が増す」とされています。なので、アームラインを意識しつつ、肘・肩の2側面からのアプローチを行うことで運動連鎖の改善を試みることで、動作時における肩に対する負担を最小限にすることができると考えています。
肘の機能的な動きが失われると、上肢全体の機能が障害されます。4月のワークショップは、前腕の機能改善による全身の動きの改善の解説をします。