吐く筋肉と吸う筋肉 |
効率的で有益な呼吸は、良い姿勢や明確な思い、そして本来のデザイン通りに体を使うことにおいて、不可欠なものです。ほかの多くの体の機能と同じように、呼吸という単純な行為も、しばしば無意識の中で制限されています。
不利な姿勢と身体の誤用は、筋の過剰緊張をもたらします。筋緊張は、胸郭、肺、鼻腔、口、のど(気管)に至る機能に影響を及ぼします。また、よく見られる上半身が崩れた姿勢や縮こまった姿勢を起こさせます。姿勢が崩れると、空気を取り入れる肺の容量に多大な制限をかけることになります。そして、「浅い呼吸」となってしまい、必要な空気を取り込むに当たって、より労力を要する状態となります。つまり、本来の楽な呼吸を、あえて労力をかけておこなってしまうというわけです。
この余分な呼吸は、ほぼ無自覚なまま行われています。私たちは浅い呼吸と負荷のある呼吸に慣れてしまっているからです。これが長年行ってきた呼吸の仕方であり、私たちはそれを「普通」「正しい」と感じています。
悪い姿勢を定着させてしまい、私たちの動作から美しさ、全体的な協調性、器用さが奪われ、呼吸パターンを制限しています。自然な深い呼吸が制限されて、十分な酸素を得ることができなくなると、あなたの体が別の方法で必要な酸素量を確保しようとするでしょう。呼吸を速めて呼吸頻度を増やすようにするはずです。そのため、短く浅い呼吸となります。
自然な呼吸は、特定の呼吸や呼吸エクササイズを行うのではなく、有害な習慣をやめていくことで得られるものです。
アレクサンダーはプロの俳優・朗読家であり、効率的な呼吸は彼の朗読にとって極めて重要なことでした。アレクサンダー・テクニークは、効率の悪い呼吸の習慣に気づいて、それを予防していくものとなります。「やっていることを、より少なくする」という考え方をベースにしたアレクサンダーの有名な言葉に「呼吸しようとしなければ呼吸ができる、ということが最終的にわかったことだ」というものがあります。
呼吸が反射によって自然に行なわれることを理解しておくことは大切です。私たちは「習慣を手放す」必要があり、そして「自然に任せていく」ようにすることが大切なのです。
引用ココマデ 「アレクサンダー・テクニーク完全読本 移動の日本社 141-143P」より
吸う |
すでに呼吸が浅い人が、自分の感覚に頼って呼吸の改善に取り組んだ場合、改善することはほとんどないと思います。呼吸が浅い人が考える最善の指示は、「誤った感覚評価」に基づくものであり、結果的に誤った方法ばかりを採用してしまうことになるからです。結果的に、姿勢が崩壊し、緊張で動作が固まり、呼吸は息苦しくなっていきます。
呼吸時のインナーコアユニット |
呼吸の深さは根気強さとつながっているという説があります。理論的に考えてみると、「呼吸が浅い人は必要な酸素量が確保できていない=持久力がない」ということになります。呼吸が浅い人のトークや歌を少し聴いてみればすぐにわかると思いますが、聴いているだけで息苦しくなってきます。声を介して緊張が伝わってくるからです。呼吸が浅い人の歌の波形はこんな感じです。
呼吸が浅い人の歌の波形 |
聴き始めてすぐにわかるのは「声が小さい~出ていない」ということです。発声という機能は身体能力に依存するので、大きな声が出ないのです。緊張でのどを締めつけているため、何を言っているのかわかりませんし、低音域と高音域が出ていません。声に伸びがないので安定しません。
声の大きさに関しては、「奥田民生――その大声ボーカルの魅力について」が好きです。
音程とか、音域とか、表現力とか、ボーカル力を測る指標は色々とあるが、「ロックボーカリストは、まず声がデカくなければならない」と、ここは誤解を怖れず言い切ってしまいたい。
その大声が、ほとんどビブラートをかけずに発せられるのも、聴く側にとって、原始的な快感となる。言わば、余計な変化や変則的な回転無しで、ただひたすらど真ん中に投げ付けられる剛速球、それが「奥田民生大声ボーカル」の魅力だと考えるのだ。
私は、体の動きも「火の玉ストレート」が好きなのですが、自然な呼吸で発せられるパフォーマンスには原初の喜びがあります。ソフトボイスでありながら声量があるのが理想的だと感じております。
6月の各地の集中講座では、自然な呼吸と発声についての解説もしていく予定です。