扁桃体(へんとうたい)と心拍コヒーレンスの関係は、主に心臓と脳の間の情報伝達と感情調節という文脈で議論されます。心拍コヒーレンスは、心拍変動(HRV)という指標の状態の一つであり、自律神経系の機能的な柔軟性と感情の安定性に関連すると考えられています。
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| 扁桃体 |
扁桃体の役割: 扁桃体は、脳の辺縁系に位置し、恐怖や不安などの感情的な処理に深く関わっています。感情的に刺激的な情報に遭遇すると、扁桃体の活動が活発になり、自律神経系を通じて心拍数の増加や心拍変動の低下(つまりコヒーレンスではないリズム)といった生理的覚醒反応を引き起こします。
心拍コヒーレンスとは:
心拍コヒーレンス(Cardiac Coherence/Physiological Coherence)は、心拍変動(HRV)のパターンが規則的で滑らかな正弦波状になり、呼吸リズムと同期している状態を指します。
この状態は、心臓と呼吸の間の協調性(コヒーレンス)が高まっていることを示し、副交感神経の活動が優位で、自律神経系のバランスが取れている状態とされます。
心拍コヒーレンスが高い状態は、認知的機能の向上、感情の安定、ストレスへの適応力(レジリエンス)の高さと関連しています。
扁桃体と心拍コヒーレンスの関連
心臓から脳への情報伝達:
心臓は、内在性心臓神経系という独自の神経ネットワークを持ち、ここから発生する神経信号は迷走神経などを通じて脳に送られます。
これらの信号は、扁桃体を含む視床下部や大脳皮質などの脳領域に伝達され、脳機能に影響を与えます。
感情調節とHRV(心拍変動):
研究により、心拍変動(HRV)が高いこと(自律神経系の柔軟性が高いこと)は、扁桃体と内側前頭前野(mPFC)の機能的結合が強いことと関連することが示されています。
内側前頭前野は、感情の抑制や調節に重要な役割を果たしており、扁桃体の活動を抑制することで感情反応を調整します。
高いHRVは、この前頭前野による扁桃体の制御がうまくいっていることを示唆し、効果的な感情調節能力と関連付けられています。
コヒーレンスの効果:
心拍コヒーレンスは、自律神経系がバランスの取れた柔軟な状態にあることを示すため、コヒーレンスな心拍リズムは扁桃体を含めた脳機能全体の向上につながると考えられています。
逆に、コヒーレンスではない不規則な心拍リズムは、扁桃体を含む脳機能に悪影響を与え得ます。
HRV呼吸法などのコヒーレンスを促す技法は、扁桃体などの情動処理に関わる脳部位を介した心臓と脳のフィードバックループに良い影響を与え、感情的な落ち着きや自己制御能力を高めるのに有効とされています。
要するに、心拍コヒーレンスの状態は、自律神経系のバランスが整っていることを示し、それが扁桃体の過剰な活動を抑制し、感情調節を司る脳部位との連携を強化することで、心の安定性やレジリエンスを高めることにつながると考えられています。
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| HRV(心拍変動)呼吸法 心拍コヒーレンス |
HRV(心拍変動)呼吸法とは、心拍変動(HRV)を最大化する特定のペースで呼吸を行うことで、自律神経系のバランスを整え、感情の安定やストレスへの適応力(レジリエンス)を高めることを目的とした呼吸法です。
この呼吸法は、心臓と呼吸のリズムを同調させ、最も効率的に副交感神経(リラックスを促す神経)の活動を高めることを目指します。この状態は心拍コヒーレンス(Cardiac Coherence / Physiological Coherence)と呼ばれます。
目的と効果
主な目的
心拍コヒーレンスの状態を作り出すこと。
HRV(心拍変動)を向上させること。
自律神経のバランスを整えること。
期待される効果
感情調節能力の向上:不安やイライラなどのネガティブな感情のコントロールがしやすくなります。
ストレス耐性の向上:心身のストレスに対する適応力や回復力(レジリエンス)が高まります。
集中力・認知機能の改善:脳の機能が安定し、思考の明晰さや集中力が増します。
心身の健康維持:心拍リズムの安定は、ホルモンや免疫系の働きとも関連しており、全身の健康度の指標となります。
HRV呼吸法の基本的なやり方
HRV呼吸法は、一般的に「共鳴呼吸(Resonance Breathing)」や「コヒーレンス法」とも呼ばれ、1分間に約4.5回から7回の非常にゆっくりとしたペースで行うのが特徴です。多くの人にとって、1分間に6回(1サイクル10秒)が目安とされています。
姿勢と意識:
楽な姿勢(座るのが理想的)で、リラックスします。
目を閉じ、意識を胸(心臓のあたり)に向けます。(ハート・フォーカス)
この時、呼吸をしながら、感謝や思いやり、穏やかさといったポジティブな感情を心の中で感じようとすることが効果を高めます。
呼吸のペース:
鼻から息を吸い込み、約5秒かけてゆっくりとお腹を膨らませます(腹式呼吸)。
鼻または口から息を吐き出し、約5秒かけてゆっくりとお腹をへこませます。
5秒吸って、5秒吐く、という10秒1サイクル(1分間に6回)のペースを繰り返します。
注意点:
厳密に時間を計る必要はありませんが、最初はタイマーやガイド付きのアプリを使用するとやりやすいです。
無理に深く吸い込もうとせず、心地よいと感じるペースで行うことが重要です。
慣れるまでは、1日1回、10分から15分程度を目安に毎日継続することが推奨されます。
補足:共鳴呼吸回数(共鳴周波数)
HRV呼吸法を最大限に活用するためには、個々人にとって心拍変動が最も高くなる最適な呼吸数(共鳴呼吸回数)を見つけることが理想的です。この周波数は、医療機関などで心拍変動バイオフィードバックと呼ばれる専門的な分析によって特定されますが、多くの場合は「1分間に6回」がその範囲内(4.5~7回/分)に収まります。
安部塾薬院校時代に「IBUKI」というガイドCDをつくりましたが、鼻から息を吸い込み、約5秒かけてゆっくりとお腹を膨らませ、鼻または口から息を吐き出し、約5秒かけてゆっくりとお腹をへこませ、5秒吸って、5秒吐く、という10秒1サイクル(1分間に6回)のペースを繰り返す点は全く一緒です。「ソーハム」の音をあてることで効果を高めていました。

