「生きるための脳」の正体(爬虫類脳)
「生きるための脳」とされる部分は、進化の過程で最も古く形成された部分であり、脳の深部に位置しています。
1. 脳の部位
主に「脳幹」と「大脳基底核」などが該当するとされます。
脳幹(のうかん):
延髄、橋(きょう)、中脳などから成り、脊髄と大脳をつなぐ、生命維持の中枢です。
大脳基底核(だいのうきていかく):
運動の調節や習慣的な行動などに関与します。
2. 主な機能:生存本能と生命維持
この脳の主な役割は、「とにかく生き残ること」、つまり個体の生命を維持し、安全を確保することです。意識的な思考とは関係なく、自動的に機能します。
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| 主な役割 |
3. 「生きるための脳」の特徴
無意識・反射的: 意識して止めようとしても難しい、本能的な反応を司ります。
最優先の処理: 生命の危険に関わるため、他のどの脳よりも早く反応します。恐怖や異常な匂いを嗅いだとき、まず体が動くのはこの脳の働きです。
現状維持バイアス: 新しい環境や変化は「危険かもしれない」と判断し、安全が確認された慣れた状態を維持しようとする傾向があります。
補足:脳の三層構造との関係
この「生きるための脳(爬虫類脳)」の上に、
哺乳類脳(情動脳): 感情、記憶、社会性(好き嫌いや仲間意識)を司る。
人間脳(理性脳): 高度な思考、計画、理性を司る。
が順に発達していったというのが、三位一体脳説の考え方です。
ただし、この説は脳の進化を理解するための比喩的・概略的なモデルであり、現代の神経科学では脳の構造はもっと複雑で、各部位が相互に連携して機能していることが分かっています。「三位一体脳説」は、脳の進化を分かりやすく説明するモデルとして広まりましたが、学術的には、すべての脊椎動物の脳には大脳の基盤となる構造(外套)が存在するなど、哺乳類以外にも高度な大脳構造があることが明らかになっており、「脳が単純な層として順に積み重なった」とする考え方は、誤解を招く単純化であると指摘されています。 その代わり、各脊椎動物で異なる領域が並行して拡大・発達したという見方が主流になっています。
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| 生きるための脳 |
私たちの思考、感情、行動の大部分を水面下で支配している、心の巨大な領域です。
1. 潜在意識の概要
顕在意識との対比(氷山モデル)
意識は大きく顕在意識と潜在意識の2つの領域に分けられます。これはよく「氷山」に例えられます。
顕在意識(けんざいいしき):
水面上に見えている部分。約5%〜10%を占めます。
自覚できる意識で、論理的な思考、判断、意思決定、言語化できる部分です。
例:「今日は勉強しよう」「これを買おう」と意識的に考えること。
潜在意識(せんざいいしき):
水面下に隠れて見えない部分。約90%〜95%を占めます。
自覚できない意識(無意識)で、感情、習慣、本能、過去の経験、価値観などが蓄積されている領域です。
例:特定の状況で反射的に湧き出る感情、毎日のルーティン、なぜか苦手な人、自転車に乗る動作。
心理学上の位置付け
この概念に最初に着目したのは、精神分析学の創始者であるジークムント・フロイトです。彼は意識を「意識」「前意識」「無意識」に分け、後にカール・グスタフ・ユングが「個人的無意識」の上に「集合的無意識」という概念を提唱しました。
2. 潜在意識の主な機能と特徴
潜在意識は、私たちの人生や行動に絶大な影響を与えています。
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| 潜在意識の主な機能と特徴 |
3. 潜在意識の活用
潜在意識は、「行動の習慣やパターン」の親玉であるため、ここを上手に活用することが、目標達成や自己成長の鍵とされます。
アファメーション(肯定的な断言):
潜在意識は否定を理解しないため、「〜したい」ではなく「〜である」という完了形や肯定的な言葉を繰り返し意識に送り込みます。
イメージング:
達成したい目標や理想の自分を、五感を伴って鮮明にイメージし、潜在意識に「それが現実である」と錯覚させます。
成功体験の積み重ね:
小さな成功体験を顕在意識でしっかり認識し、それを潜在意識に蓄積することで、自己肯定感(セルフイメージ)を高め、行動パターンをポジティブに変えていきます。
潜在意識は、あなたの「心の奥深くに眠る巨大なデータベースと自動実行システム」であり、それを理解し、意識的に良い情報を与え続けることが、より良い人生を送るための重要なステップとなります。
「生きるための脳」(爬虫類脳)と潜在意識は、どちらも「意識下の行動と生存を司る領域」として、非常に密接な関係があります。
「生きるための脳」の機能のほとんどは、私たちが普段自覚できない潜在意識(無意識)の領域で実行されています。
生きるための脳と潜在意識の関係性
1. 潜在意識の根源的な部分
「生きるための脳」(脳幹や大脳基底核など)が司る機能は、人間の意識の階層で最も深くに位置し、潜在意識の中でも最も根源的で原始的な部分に相当します。
生命維持機能: 呼吸、心拍、体温調節といった生命活動は、私たちの意思とは無関係に、潜在意識(生きるための脳)によって24時間休まず自動操縦されています。
本能的行動: 摂食、性欲、なわばり意識、そして「危険から逃げる」といった生存本能は、理屈ではなく、この原始的な脳が無意識のうちに最優先で実行する指令です。
2. 生存を最優先するプログラム(防衛本能)
潜在意識は、過去の経験や価値観を蓄積し、私たちの行動の90%以上を支配しますが、「生きるための脳」は、その潜在意識の働きに「生存の指令」という強力なバイアスをかけます。
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| 生存を最優先するプログラム(防衛本能) |
3. 反応のスピード
「生きるための脳」は中枢神経に近く、最も早く反応する脳です。この超高速な反応は、理性的な判断(顕在意識)よりも速く行動を決定します。
これは、潜在意識が理性よりも早く、危険から身を守るための指令を出しているためです。たとえば、意識的に「逃げよう」と思うより前に、体が勝手に反応して飛びのくのは、この繋がりによるものです。
潜在意識を活かす上での重要性
「生きるための脳」が司る生存本能は非常に強力なため、顕在意識(理性)で「やるぞ!」と決意しても、潜在意識に「それは危険だ」「現状維持が安全だ」というプログラム(思い込みや習慣)が残っていると、無意識の抵抗により行動が妨害されてしまいます。
目標達成や自己成長のためには、この原始的な生存システムを敵にするのではなく、味方につける必要があります。
安全の再プログラミング: ポジティブなアファメーションやイメージングを通じて、「目標を達成することは安全で、自分にとって良いことだ」という情報を潜在意識に繰り返し与え、古い防衛本能を書き換えていくことが重要です。
身体からのアプローチ: 「生きるための脳」は呼吸と密接に関わるため、ストレスや脅威を感じた際に意識的に深くゆっくり呼吸することで、無意識下の防衛反応(闘争・逃走反応)を鎮めることができます。



