心拍コヒーレンスの状態が遺伝子発現(エピジェネティクス)に好ましい影響を与える可能性があるという研究結果が示されています。
心拍コヒーレンスとは
心拍コヒーレンス(Heart Rate Coherence, HRC)は、心拍変動(HRV:心臓の拍動間隔のばらつき)が調和の取れたパターンを示している状態を指します。具体的には、心拍リズムが正弦波に似た、約0.1Hz(10秒周期)の規則的な波形を示す状態です。
これは、自律神経系の交感神経と副交感神経のバランスが最適化され、協調して働いている状態を示します。
この状態は、感謝、喜び、思いやりといった前向きな感情を持続的に意識的に生み出すことによって達成されることが、研究によって示されています。
心拍コヒーレンスの状態は、認知機能の向上、情動安定、回復力(レジリエンス)の強化と関連しています。
エピジェネティクスとは
エピジェネティクスは、「DNAの塩基配列を変化させることなく、遺伝子の機能発現を制御・維持するシステム」を指します。
環境要因(食生活、ストレス、運動、感情など)によって、DNAにメチル化が起こったり、ヒストンというタンパク質が化学修飾されたりすることで、特定の遺伝子のスイッチがオンになったりオフになったりします。
エピジェネティクスは、個人の健康状態や病気のリスクに大きく関わっていると考えられています。
心拍コヒーレンスとエピジェネティクスの関係
ハートマス研究所(HeartMath Institute)などによる研究では、心拍コヒーレンスの実践を通じて生じるポジティブな感情や、それに伴う生理的な調和の状態が、遺伝子発現に良い影響を与える可能性が示唆されています。
ポジティブな感情の影響:
感謝や思いやりといった心臓に焦点を当てた前向きな感情は、有益な遺伝子発現の変化をもたらす可能性があることが、エピジェネティクスの分野で示されています。
生理的状態の変化:
心拍コヒーレンスは、自律神経系のバランスを整え、ストレス反応を軽減します。
ストレスは、DNAメチル化の異常などを引き起こし、遺伝子発現に悪影響を与えることが知られています。心拍コヒーレンスは、この悪影響を打ち消し、より健康的な遺伝子発現パターンを促す可能性があります。
DNAの構造変化への影響:
初期の研究では、高い心拍コヒーレンスを生成できる人が、意図的にDNAの形状を変化させる能力を持つ可能性が示唆されています。これは、心臓が生み出す強力な電磁場が、物理的なシステム(DNAを含む)への情報結合の重要なアクセスポイントとなるという理論に基づいています。
簡潔に言えば、心拍コヒーレンスの状態は、ストレスを減らし、ポジティブな生体環境を作り出すことで、健康やウェルビーイングに役立つ遺伝子の働きを促進する(エピジェネティックな変化)と考えられています。