2024年6月13日木曜日

何が間違っているのか、なぜそうなったのか、そしてそれに対して何ができるのかを問う。

 生物心理社会モデルでは、人の全体的な健康は身体的、精神的、社会的要因の組み合わせであると考えます。つまり、腰痛や膝の痛みなど、患者の身体的症状を治療するだけでは不十分です。最も効果的なケアを提供するために、精神的、感情的健康、および社会的環境も考慮する必要があります。

 たとえば、首の痛みや頭痛のある患者を治療する理学療法士は、症状の緩和に必要な姿勢や軟部組織の機能を改善するための必要な手技療法を行うだけでは十分ではありません。社会的環境や精神状態も考慮する必要があります。そもそもこの慢性的な首の痛みの原因は何だったのでしょうか。環境要因でしょうか。ストレスや生活習慣が関係しているのでしょうか。これらの症状は、精神的健康や社会的関係にどのような影響を与えているのでしょうか。ケアに包括的なアプローチを取ることで、状態をよりよく理解し、一時的に症状を隠すだけでなく、根本的な原因を突き止めて問題を解決する効果的な治療計画を立てることができます。

定式化

「定式化は、何が間違っているのか、なぜそうなったのか、そしてそれに対して何ができるのかを問う。」

 生物心理社会モデルでは、生物学的要因、心理学的要因、社会的要因のそれぞれについて「4つのP」を考慮します。

①素因とは、現在の問題のリスクを高める脆弱性の領域です。例としては、精神疾患に対する遺伝的素因(家族歴など)や、出生前のアルコールへの曝露などが挙げられます。

誘発要因は通常、症状の誘発要因となる可能性のあるストレス要因やその他の出来事(良い場合も悪い場合もあります)と考えられています。例としては、アイデンティティに関する葛藤、人間関係の葛藤、変化などが挙げられます。

永続的要因とは、患者、家族、コミュニティ、またはより大きなシステムにおいて、問題を解決するのではなく悪化させるあらゆる状況を指します。例としては、対処されていない人間関係の葛藤、教育の欠如、経済的ストレス、職業上のストレス(または雇用の欠如)などがあります。

④保護因子には、患者自身の能力、スキル、才能、関心、および支援要素が含まれます。保護因子は、素因、誘発因子、および持続因子に対抗します。


心理面における永続的要因は何か?(慢性的なことは何か?)

• 近しい家族、パートナー、友人との死別または別居
• 対人関係のトラウマ
• 仕事/学業/経済的なストレス
• 最近の移住、家を失うこと、支援サービスの喪失(例:休息サービス、適切な学校配置)
• 個人の現在の経験/症状は過去の状況と似ていますか(つまり、「歴史は繰り返される」)? たとえば、過去に喪失や別居などを経験したことがあるかもしれません

社会面における誘発要因は何か?

1 つ以上の持続的な心理的プロセス:
•認知: 慢性的な否定的な思考とそれを強化する環境
•弁証法的: 援助を求めることと援助を拒否すること、慢性的な感情の調節不全と苦痛耐性の低さ 
•対人関係: 慢性的/未解決の機能不全な関係、対人関係の葛藤、または役割の移行 
•精神力動的: 生涯を通じて繰り返されるテーマ、慢性的な原始的防衛 • 自己/他者/世界についての信念は何ですか? どのような考えを内面化していますか?
• 自己破壊的な対処メカニズム、またはトラウマ的な再現がありますか? 
• 継続的な対処スキルの低下、洞察力の限界または欠如? 
• 性格特性 (例 - 境界性パーソナリティ障害では一貫した対人関係を維持できない) 
• この特定の状況で、愛着スタイルはどのように発揮されてい ますか?

社会面における永続的要因は何か?(慢性的なことは何か?)

• 夫婦関係の慢性的な不和、家族や友人からの共感の欠如、発達に不適切な期待
• 慢性的に危険または敵対的な近隣、移民の世代間問題、文化的に適切なサービスの欠如
• 継続的な移行とストレス要因
• 貧弱な財政または長時間労働
• 孤立、安全でない環境


 出ている症状は、ただの腰痛や膝の痛み、首の痛みだったとしても、その痛みが慢性化しているとしたら、心理的要因と社会的要因が複雑にからんでいます。慢性的な痛みを訴える人には、その人特有のストーリーや物語を伝えるテンプレートが存在します。

人生脚本

 幼少期に親の影響や兄弟との関係性の中で身に着けた幼児決断や、その内容である拮抗禁止令・プログラム・禁止令許可の影響を受けて、人生脚本が形成されます。人生脚本は、無自覚に無意識の中で自身の人生の決断を決定する物差しや動機づけになっています。

「したがって、自律性という感覚は、ほとんど錯覚であることが多い。そして、その錯覚は、人類の最大の苦悩を意味するものである。なぜなら、ごく少数の人たちだけが、その発育の過程で真の自己認識、誠実、創造性、他人との親密性などを身につけることができるからである。残りの人たちにとって、他人は単に自分が操作すべき対象とみなされることになる。他人は、ドラマの主人公の役割を強化し、そのために必要な、それぞれの役割を演ずるように要望され、説得され、そそのかされ、買収され、強制され、そのようにしてその脚本はつつがなく運ぶのである。しかし、自分の役割を演じることに没頭している間に、現実の世界から遊離し、その中における自分の本来の可能性を発揮できなくなるのである。」エリック・バーン

 自分にとって有害な人生脚本を書き換え、人生脚本から自由になるためには、まず自分の有する人生脚本に気づくことが必要になります。

 幼少の時から自分の人生の岐路においてその判断を行ってきた歪んだ人生脚本を直ちに書き換えて、新しい人生脚本で生きるのは、実際には困難です。慣れ親しんだ歪んだ人生脚本に基づいて生き方を決定してしまいます。自分が変化することに、無意識レベルで抵抗がはたらくため、これまで通りの行動をとってしまうからです。

 他人に変わってほしいと思っても、その当人が変わる気がなければその人が新しい人生脚本を手にすることはできないのです。

4つのライフポジション

①自分は「not OK」、相手は「OK」。

 自分は「認められない」けれど、相手は「認められている」という状態のこと。自己肯定感が低い人の考え方、捉え方。

②自分は「OK」、相手は「not OK」。

 自分は「認められる」けれど、相手のことは「認められていない」という状態のこと。自己愛が強く、相手を「not OK」にしないと自分の心を保てない自己肯定感が低い人の考え方、捉え方。マウントをとりたがる人や、自分が一番じゃないと気が済まない人は、実際には自己を肯定できていません。

③自分は「not OK」、相手は「not OK」。

 「自分も相手もどちらも認められない」という、猜疑心・不信感を持っている孤立・孤独な人の考え方、捉え方です。自分も認められないし、相手も認められないという状態で安定しており、自他を肯定できていません。

④自分は「OK」、相手は「OK」。

 自分のことも「認められている」し、相手のことも「認められている」という状態のこと。自分も大切にできるし、自分を大切にできるからこそ相手も大切できる、自己肯定感の高い人の考え方、捉え方。


 自己肯定感が高い人は、自分の良いところも悪いところも含めて、「ありのままの自分で大丈夫」という、自分の存在を肯定する感覚を持っています。


自分の持っている「ビリーフ」と、自分に対して抱いている「セルフイメージ」

ビリーフ=自分が真実だと信じている信念や思い込み

セルフイメージ=「自分はこういう人間である」という、自分が自分に対して抱いているイメージ

 ビリーフやセルフイメージは、幼児期に繰り返し言われたことや、これまでの人生の経験や体験、他者を見て学んだことから自分の中で築きあげられます。固定観念や先入観であり、「実際には、真実とは限らない」という性質のものです。自分のビリーフやセルフイメージが、何かの妨げになっているかもしれないと感じた人は、何が間違っているのか、なぜそうなったのか、そしてそれに対して何ができるのかを問う必要があります。

良好な人間関係

 幸福な人生を送るうえで、良好な人間関係は欠かせません。「自分自身そのものが認められている・受け入れられている」という感覚が重要だからです。自分の行動や能力などの限定的なものだけしか認めてもらえないとしたら、それはとても不幸なことです。自分のことそのものを受け入れてくれる人や認めてくれる人たちに囲まれて生きているかどうかが、とても重要なのです。