2024年1月6日土曜日

カメラのレンズが歪んでいたら、映るものすべてが歪んでしまう。妄想や幻から覚醒し、自分を偉いものと思わず、素直に他に学ぶ。

 安部塾では、「天地、東西、男女などの二項対立は人類の普遍的心性に根ざす」と考えており、それを基にさまざまな身体操作技術の相互連関的探求を楽しんでおります。共時的・普遍的・法則的要因を重視し、可変的な表層的諸現象の背後に隠された深層的で不変な「構造」を探究するというスタイルなため、おそらくは一生飽きることはありません

 ゲシュタルト(全体としての特徴)を直接的に認識し、ありのままの運動とそれに対応する生理的過程をそれぞれまとまりのある現象、すなわちゲシュタルトとしてとらえる考えることで、姿勢改善や運動連鎖の改善の理解が進みます。全体は部分より大きく、いかなるものであれ全体の属性は部分の個別的な分析から導き出すことはできないのです。

 何かを学ぶとき、現在の自分の能力を過大評価して「これは自分には必要ない学問だからやらない」ということを繰り返している人の姿勢や動きが何年経っても改善しないのはどこでも観察される現象です。必要ないのではなく、わからなさすぎて価値を理解できないだけなのです。カメラのレンズが歪んでいたら、映るものすべてが歪んでしまうのです。

 絶対に正しいことなど存在はしません。「正義の反対は、もうひとつの正義である=二項対立は人類の普遍的心性に根ざす」として、双方の立場を考えることでサクサク姿勢と動きが改善していきます。妄想や幻から覚醒し、自分を偉いものと思わず、素直に他に学ぶ気持でいることができるからです。

構造主義(structuralism)

 一般的には、歴史主義や文化相対主義に対立する思想的立場をいい、歴史的・一回性的・機会的要因よりも共時的・普遍的・法則的要因を重視する学説やその方法を総称する。構造主義は言語学の開祖ソシュール、の構想に由来する。ソシュールは言語の法則性を求める共時言語学と歴史的変遷を主題とする通時言語学とを分け、そこからそれぞれの対象として普遍的法則の体系としてのラングと個人的言語行為としてのパロール、とを区別した。この発想は、言語の普遍的位相と特殊的位相との二つの次元を区別し、前者を重視する構造言語学派を生んだ。ジャコブソンは、ソシュールが記号の意味は単独では決定されず他の記号との対立関係によって規定されるとする説を受けて、すべての個別言語の駆使する音素は,有声性対無声性などほぼ13対の示差的特性(弁別素性)の組み合わせによって生成されるという普遍的構造を見いだし、アメリカを中心に構造言語学の隆盛を導いた。現象を規定する抽象的法則性の発見は、記号学という新しい領域を開く契機にもなった。

 しかし、構造主義の名をことさら高めたのは,フランスの文化人類学者レビ・ストロースの業績にある。彼は、親族組織、神話、未開の思考などを対象にしたが、たとえば神話の研究に構造言語学の音素分析の手法を援用し、神話の要素間の対立関係などを手がかりにして隠された意味の解読に努めた。その方法には,三つの特徴があるといわれる。第1は関係論的視点であり、文化現象の個々の要素ではなく要素間の関係、たとえば対立を重視する。第2の特徴の全体論は、各要素は相互関係の中で初めて意味が定まり、関係的全体こそ一次的とする。第3は層位論的視点を取り、直接知覚できる表層の現象はその底に潜む深層の意味構造に対応させなければ真の理解は不可能とする。このような視点と方法を取る文化人類学は構造人類学とよばれ、1960年代から周辺諸学にも大きな影響を与えてきた。

 心理学においても構造主義に立つ学派は、早くから存在した。代表はゲシュタルト心理学とピアジェの認知発達説である。前者は、それまでの感覚要素の強調に反対して、ゲシュタルトという全体構造の部分規定性を主張し、さらに近接・類同などの潜在する構造化原理(ゲシュタルト要因)が力動的均衡を要請し(簡潔性の原理)、表層現象を形成するとした。その主張の新奇性から、構造主義はゲシュタルト心理学の別名とされた時期もあった。ピアジェはやや遅れて、⑴諸要素が不可分なまとまりを構成するという全体性、⑵構造中の要素を変えても変換システムによる結合関係の本質は変わらないという変換性、⑶自動調節機構による系としての本質と閉鎖性を維持する自己制御の三つの特性を構造とよび,群性体や束-群のような論理数学的構造が児童の思考様式という表層を規定するとした。

 構造主義は、その普遍性と秩序志向の偏りを指摘され脱構築のような批判を招くに至った。ピアジェ説の重点も構成主義の側面に移行した。しかし、Gestaltは現在心理学の基礎語彙の一つになっている。チョムスキーは構造言語学のデータ偏重や行動主義的言語観を退けたが、その生成文法論は深層から表層構造への生成過程を主題とし、構造主義の正負両面の影響を示している。レビ・ストロースは、天地、東西、男女などの二項対立は人類の普遍的心性に根ざすとした。これら諸相には、構造主義が今も心理学に投げかける重い問題が提示されている。 →ゲシュタルト心理学 →言語心理学 →構成主義 →発生的認識論

出典 最新 心理学事典 藤永 保

ゲシュタルト心理学

 精神活動を心的要素の結合として説明する立場に対し、全体としての特徴、つまりゲシュタルトを直接的に認識するという事実を強調する心理学。形態心理学。

出典 小学館デジタル大辞泉