2024年1月28日日曜日

良い運動とは、余計な力みのない、肩の力が抜けたやわらかい運動。あらかじめ軌道を計算して、それに見合った運動指令を出力する前向きなフィードフォワード制御。

 今日の新宮校ワークショップは、フィードフォワード制御について解説しました。補足記事を書きます。フィードフォワード(feed forward)とは、未来を予測して「これからどうすべきか」を追求していく考え方です。 

フィードバックとフィードフォワード

フィードバック運動制御(閉回路制御)

 ゆっくりとした遅くて簡単な運動は、体性感覚や視覚のフィードバックによって遂行されます。これを、フィードバック運動制御といいます。計画した軌道と実際の軌道のずれを逐次フィードバックしながら、修正を加え、できるだけそられの誤差を小さくするように運動を行うことになります。体性感覚で30~50msec程度、視覚では100msec以上のフィードバック時間の遅れが生じるため、1秒を切るような速いなめらかな運動に対応することはできません。

フィードフォワード運動制御(開回路制御)

 フィードバック情報をうまく使えないような1秒を切るような速くてなめらかな運動の場合、フィードフォワード制御が必要となります。フィードフォワード制御とは、あらかじめ、目的とする運動に必要な運動指令を脳内で計算しておいてから、フィードバック情報に頼ることなく運動を遂行する制御です。運動指令を計算できる条件として、中枢神経系内に筋骨格系のダイナミクス情報が前もって存在している必要があります。

 脳が手足を制御するときに解決すべき問題は、制御プログラムが手足のあるロボットを制御 するとき解決すべき問題とよく似ています。計算論的神経科学では、脳に実装されていると思われる機構を同定します。 

 速くて正確な腕や脚の運動を実現するためには、フィードフォワード制御が必要であるとされています。このためには、制御対象(例えば腕)のダイナミクスを表現する内部モデルが脳内に獲得されていなければなりません。速くて正確な運動を遂行するためには、内部モデルの再構築が必要になります。

姿勢や動きがいい人とは

 フィードバック制御を使いながらゆっくり丁寧にやっていた運動を、できるだけフィードフォワード制御で労力をかけずにちゃんと目的を達成できるようになれている人です。運動学習を通して、運動制御の精度を上げることできています。運動学習にともなって、よりなめらかな運動が実現されています。

 速い運動を制御するためには、フィードバック情報に頼らずに、あらかじめ軌道を計算して、それに見合った運動指令を出力する前向きなフィードフォワード制御が必要です。随意運動時に経時的に変化する仮想軌道(釣り合い位置)に関節が追従することによって動きが発現することになります。脳が仮想軌道をつくることができて、身体がそれを追いかけることで随意運動が実現されるのです。

動きのやわらかさについて

 内部モデルが構築されるにつれて、余計な力が入らない、やわらかい良い運動が実現されてきます。運動が上達している人ほど「肩の力が抜け」ていて、「力まずに」動くことができます。

 運動学習の初期においては、内部モデルが不完全です。なので、剛性を上げて運動に対応することになります。運動学習が進むにつれて、内部モデルが構築されていくので、徐々に剛性を下げてもうまく運動ができるようになります。その途中で、試行に失敗すると一時的に剛性を上げて適応しながら、全体としては熟練した内部モデルによるやわらかい制御を学習していきます。

フィードフォワード制御は「予測制御」

 姿勢と運動の調節をするために予測制御が使われます。例えば、腕をあげる時、手の動きより先に体幹と脚部の筋肉を予備収縮して、身体のバランスの変化に備えます。重いものを持ち上げるときには、重さを予測して、体幹・腕・脚などの筋肉の緊張を高めて動作の準備をします。

 予測制御には、これまでの経験や感覚入力が必要です。反復練習を行い、経験を積み重ねることで、予測制御がより正確になり「迅速でなめらかな動き」が実現します可能になります。脊髄でフィードバック・メカニズム作用を修正することが重要だとされています。