2018年10月15日月曜日

慢性痛と扁桃体~恐怖や不安が過剰に起きると、痛みの軽減が阻まれ、慢性痛に転化する。

今日は、小難しい『慢性痛と扁桃体』のお話を。

慢性痛のサイエンス 脳からみた痛みの機序と治療戦略 著:半場 道子

慢性痛のサイエンス 脳からみた痛みの機序と治療戦略 著:半場 道子26-29Pより

 扁桃体は辺縁系の神経核で、不快感、恐怖、不安、怒りなど、負の情動の発現に中心的役割を担っている。アーモンド型をした左右1対の器官で脳の底辺にあり、嗅覚情報が生存に重要であった両生類、下等哺乳類など野生時代の名残りで、嗅球・嗅索に近い位置にある。

 扁桃体には、生きるうえで必要な原始的感覚(嗅覚、侵害情報、触覚、内臓感覚、視覚、体温感覚、味覚、聴覚など)がすべて入力される。これらの感覚情報に対して、過去の経験や記憶に基づいて、有害=負情動か、有益=快情動かの評価を下して、記憶の固定に関わっている。

 扁桃体は、機能の異なる複数の亜核から成る神経核で、系統発生的に古い中心核と皮質内側核、比較的新しい基底外側複合体、の3つに分けられる。
 扁桃体に入る情報の中で、侵害情報は、身体が侵襲されたという「命の一大事」の警告信号である。生体は侵害情報を短い経路で伝える脊髄腕傍核扁桃体投射を発達させて緊急事態に備えている。これは脊髄三角(三叉神経)の第一層細胞→腕傍核→扁桃体中心核外側外包部、という短い痛覚投射系で情報を伝えている。

 扁桃体中心核外側外包部は、驚くべき特殊性を持っており、このニューロン集団の約80%は侵害刺激に応答する。痛み情報処理に特化した機能であるがゆえに、「侵害受容性扁桃体」の異名で呼ばれるほどである。命を脅かす侵害受容に対して、生体がいかに緊急の情報処理機構を発達させ、本能的行動を速やかに起こすように進化したかを物語っている。扁桃体への投射には、これよりもっと長い痛覚投射経路もある。視床や大脳皮質感覚野を経由し、基底外側核に入力する経路である。これは脊髄ー腕傍核ー扁桃体投射より時間はかかるが、より正確な多くの情報も含んで入力される。

 侵害信号が入力されると、扁桃体中心核はただちに本能行動を起こすように、視床下部、脳幹網様体などの広範の領域に向けて、出力を送る。結果として呼吸・脈拍が速く顔面が蒼白になり、ストレスホルモンが分泌され、フリージングなどの情動表出も瞬時に起きる。骨折すると冷や汗が出て顔面蒼白になるし、銃を突きつけられた瞬間、フリージングが起き、全身わなわなと震えた、というのは扁桃体の迅速な応答による。

 扁桃体は侵害情報を生命を脅かす信号として、恐怖感、不安感、拷問感を付して情動記憶の回路に送る。したがって痛みは恐怖・不安感を伴った「苦」、厭な不快情動として強烈な記憶として固定され、単なる感覚ではなくなる。

 扁桃体の情動的評価は、海馬、嗅内皮質、島皮質、帯状皮質、視床背内側核、大脳基底核、中脳水道周囲灰白質、前頭皮質などに送られる。そのため自律神経応答、表情や姿勢などの運動系の変化、認知機能も含めた精神活動、負情動に関わる脳回路網などが、一斉に活動する。

 野生時代、危険に満ち満ちた荒野を生きのびるために、生体は負情動を発達させた。危険を未然に察知し、注意深くそれらを回避するために、不安や恐怖感は不可欠であった。生体警告系としての急性痛も同様で、痛みを検知・認知し、恐れ、不安を感じる負情動が付加できたからこそ、それ以上の身体損傷や健康悪化を防ぐことができた。

 生命維持のうえで、負情動が果たしてきた役割は意義深い。しかしながら、恐怖や不安感が過剰に起きると、痛みの軽減を阻んでしまう。dysfunctional painを引き起こして、慢性痛に転化させてしまうのである。

引用ここまで
扁桃体

まとめると、扁桃体が過活動状態に陥ると、痛みが消えませんということです。

扁桃体が過活動状態に陥っているときは、考え方が歪んでいます。

そして、事態は悪化の一途を辿ります。

思いつく対処が、ことごとく真逆のものばかりだからです。


固定される記憶が歪み、その歪んだ記憶を元に判断するということになるからです。


助かるためには、自分の思い込みは間違っているということを認めることです。


自分が正しいことを証明する情報を集めると、自滅します。

改善しなくてはならないのですから、問題点を指摘してくれる情報を集めればいいのです。


ナルシシズムに陥っている人たちには、それができません。



他者を否定して生きているからです。


話を戻して、過活動に陥った扁桃体を落ち着かせるためには、機能的な運動が合理的です。

呼吸に集中して、人体の構造通りに動く。

必要であれば、愛情豊かな人に、ボディワークしてもらう。

慢性痛は、いつの間にか、消えてなくなるはずです。


慢性痛のサイエンスは、素晴らしい本です。