慢性痛のサイエンス 脳からみた痛みの機序と治療戦略 著:半場 道子 |
慢性痛のサイエンス 脳からみた痛みの機序と治療戦略 著:半場 道子より
一般に慢性腰痛患者では、体幹筋力の低下と抗重力筋の萎縮が指摘されている。また、dysfunctionnal painの状態にある患者では、うつ状態に陥っていることが多く、寝たきりか部屋に閉じこもりがちである。筋運動量の少ない日常が常態化して、微小重力に近い環境が続くと、姿勢保持筋の筋量は低下し、痛み刺激閾値は低下する。
このような慢性痛患者に対し、薬物療法や認知行動療法と組み合わせて筋運動を促し、運動量を増加させるプログラムを組むと、痛みの軽減に効を奏する。
骨格筋を動かして痛みが少し軽減されれば、その分だけ身体を動かすことが可能になる。骨格筋を動かすことは、さまざまな生理活性物質を分泌させ、遺伝子発現を促して全身の慢性炎症を抑制し、筋委縮を防ぐ作用に結びつく。
筋運動はこれまで、運動器機能を改善させるリハビリテーションと考えられてきた。しかし、骨格筋を収縮させることが生命維持のうえで重要な意義を有することが最近明らかになり、従来とは違った意義が注目されている。119P
注意すべきは骨格筋から分泌される生理活性物質は、弱い筋運動時と強い筋収縮のときとでは異なっている点である。
軽い運動時を続けているときには、抗炎症作用を持つIL-10、IL-4などが筋組織から産生されるので、全身の慢性炎症が抑制される。また、軽い筋運動の継続は、PGC1-αを発現させ、慢性炎症を防止し記憶力を向上させ、老いを減速させている。脂肪細胞から産生されるアディポカインのほとんどが慢性炎症を促進し、がん、2型糖尿病などの生活習慣病や老化を加速させるのとは逆の作用をもたらす。
しかし強い筋運動を続けた場合は、分泌される生理活性物質はかなり異なる。強い筋運動時には炎症性サイトカインが体内に急増し、慢性炎症を促進する方向に向かう。結果として関節軟骨の摩耗を招き、変形性関節症や疲労骨折に至ってしまうのである。アスリート並みの強い筋運動を続ければ健康が向上するという健康神話は誤った伝説である。120P
健康向上に好効果をもたらすのは、日常的に軽く骨格筋を動かすことであって、強い筋運動ではない。本章で言及した筋運動とは、スポーツジムで行うエクササイズを指しているのではなく、通勤時の歩行、家事労働、買い物、農作業、荷物の運搬など、日常的に継続可能な有酸素運動である。
筋運動や有酸素運動というと、ランニング、水泳、スポーツジムでの筋肉トレーニングなど、特別なエクササイズを思い浮かべる方が多いが、日常的に身体を動かす習慣が必要なのである。額に汗がうっすら浮かぶ程度の、日常的な筋運動が慢性炎症の抑制と筋委縮の防止に効果が大きい。128P
筋運動量が少なくなると、ROSの害が増大し慢性炎症が拡大する。大腸がん、前立腺がん、子宮がん、膵臓がん、皮膚がんは、日常的に筋運動のない人に多く発生すると結論づける研究も存在する。129P
引用ここまで
「強い筋運動を避けてください!」
安部塾の定番フレーズです。
慢性痛のサイエンス 脳からみた痛みの機序と治療戦略 著:半場 道子には、他にも最新研究の成果がたくさん書いてあります。
誤った伝説を信じないようにして欲しいので、12月1・2日の下関UZUハウスでの講座で詳しく解説します。
「強い筋運動を避けてください!」
大切なことなので、3回引用しました。
強い筋運動時には炎症性サイトカインが体内に急増し、慢性炎症を促進する方向に向かう。
健康向上に好効果をもたらすのは、日常的に軽く骨格筋を動かすことであって、強い筋運動ではない。
これ、よくよく頭にいれておいてください。
私の忠告を聴いておけば、後悔せずにすみますから。
ついでに言うと、手技において必要な圧も同じです。
軽くが大切です。
骨格筋は分泌器官です。
そのことを忘れないでください。