2026年7月9日木曜日

子どもの心身の健全な成長・発達を阻害する、すべての不適切な関わり。

 マルトリートメント(Maltreatment)とは、日本語で「不適切な養育」と訳される言葉です。

​ 児童虐待(身体的・心理的・性的虐待、ネグレクト)という言葉が持つ「犯罪」「加害者」といった極端なニュアンスよりも広い概念で、「子どもの心身の健全な成長・発達を阻害する、すべての不適切な関わり」を指します。

​ 近年、脳科学の研究が進み、マルトリートメントが子どもの脳の発達に物理的な影響を与えることが明らかになり、大きな注目を集めています。

​1. マルトリートメントの主な形態

 ​意図的な暴言や暴力だけでなく、大人の「ちょっとした認識不足」や「心の余裕のなさ」から生じる行為も含まれます。

  • 身体的マルトリートメント: 叩く、つねる、激しく揺さぶる、危険な場所に放置するなど。
  • 心理的マルトリートメント: 言葉の暴力(「生まれてこなければよかった」などの暴言)、無視や拒絶、きょうだい間での極端な差別、**子どもの目の前で配偶者に暴力を振るう(面前DV)**など。
  • ネグレクト(放棄・怠慢): 食事を与えない、不潔な環境で過ごさせる、病気なのに病院に連れて行かない、学校に行かせないなど。
  • 性的マルトリートメント: 子どもに性的な行為を見せる、触る、性的な画像を見せるなど。

​2. マルトリートメントが家庭内で起きる背景

 ​多くの場合、親が「悪意」を持って行っているわけではなく、以下のような複数の要因が重なった結果として家庭内で発生します。

  • 親の孤立(ワンオペ育児など): 身近に相談できる人や頼れる家族がおらず、育児のストレスを一人で抱え込んでしまう。
  • 経済的な困窮や生活環境の悪化: 日々の生活への不安や心の余裕のなさが、子どもへの態度に影響する。
  • 親自身の特性や健康状態: 産後うつ、精神的な疾患、または発達上の特性により、子どもの要求に適切に応えるのが難しい。
  • 世代間連鎖: 親自身がかつて不適切な養育を受けて育ったため、それ以外の関わり方が分からない。

​3. 子どもの脳への影響(脳科学的な視点)

 ​福井大学の友田明美教授らの研究により、日常的なマルトリートメントが子どもの脳の構造を変形させてしまうことが分かっています。

マルトリートメントの内容

脳への具体的な影響

激しい暴言(言葉の暴力)

聴覚を司る**「聴覚野」**が肥大化し、人の話を聞き取りにくくなったり、過剰に恐怖を感じやすくなったりする。

面前DV(ドメスティック・バイオレンス)

視覚を司る**「視覚野」**が萎縮し、記憶力や感情のコントロールが難しくなる。

厳格な体罰(身体的苦痛)

感情や理性を司る**「前頭葉(前頭前野)」**が萎縮し、感情の制御や社会性の発達に影響が出る。

4. 社会的な支援とアプローチ

 ​マルトリートメント家庭への対応は、親を「悪者」として糾弾することではなく、**「親も困っている、支援が必要な状態である」**という視点を持つことが重要視されています。

  • 予防と早期発見: 地域の子育て支援センター、保健師による訪問、保育園・幼稚園などでの「親のSOS」のキャッチ。
  • 孤立を防ぐネットワーク: 親が「助けて」と言える環境づくりや、一時的に子どもを預かるショートステイなどのレスパイトケア(息抜き支援)。
  • 専門機関との連携: 児童相談所や市区町村の子育て相談窓口(子ども家庭センターなど)による、家族全体の伴走型支援。

おわりに

 マルトリートメントは、どの家庭でも、育児の疲れやストレスのピークによって「紙一重」で起こり得るものです。大切なのは、家庭をクローズド(密室)にせず、社会全体で親子の負担を減らしていく視点です。​