古典では「シャト・カルマ(6つの浄化法)」の一つに数えられますが、実際には「肉体の浄化」から「瞑想(精神の統御)」へと移行するための架け橋のような役割を持っています。
その具体的な目的、効果、そして古典的な実践方法について詳しく解説します。
トラータカの目的と古典における位置づけ
『ゲーランダ・サンヒター』の第1章53節・54節では、トラータカについて次のように記述されています。
「まばたきをせずに、涙が出るまで小さな対象をじっと見つめなさい。これを師の教えに従って行うことをトラータカと呼ぶ」
「これにより、すべての眼の病が消え去り、神聖な視力(透視能力や直感力)が得られる。また、マハト・クンダリニー(潜在エネルギー)が目覚める」
ヨーガの心理学において、「目の動き」と「心の動き(思考)」は密接に連動していると考えられています。目がキョロキョロと動いているときは心も波立っており、逆に目の動きを完全に止めると、思考の波(チッタ・ヴリッティ)も自然と静まっていきます。トラータカはこの原理を応用した技法です。
トラータカの3つの段階(種類)
現代の実践では、対象物との関係性によって主に以下の3つの段階に分けられます。
1. バーヒャ・トラータカ(外視法)
実際に物理的な対象物を目で見る方法です。初心者から上級者まで広く行われます。
- 対象物の例: ろうそくの炎(最も一般的)、黒い点、満月、昇る太陽、水晶、鏡に映った自分の瞳など。
2. アンタル・バール・トラータカ(内外視法)
外の対象物を一定時間見つめた後、目を閉じて、その「残像」を眉間の奥(アージュニャー・チャクラ)や心臓のあたりに鮮明に描き続けようとする技法です。集中力をさらに高めます。
3. アンタル・トラータカ(内視法)
目を開けず、最初から完全に目を閉じた状態で、心の中に光の点や神聖なシンボル、チャクラのシンボルなどを強くイメージし、それを凝視し続ける高度な瞑想法です。
ろうそくを使った「外視法」の具体的な実践手順
現代で最も安全かつ効果的とされる「ろうそくの炎」を用いた手順です。
- 環境を調える: 風のない、薄暗い静かな部屋を用意します(炎が揺れないようにするため)。
- 配置: 背筋を伸ばして快適に座れる姿勢(結跏趺坐や安楽座など)をとります。自分の目と同じ高さ、または少し低い位置(視線が自然に前を向く高さ)で、約50cm〜1mほど離れた場所にろうそくを設置します。
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凝視(まばたきを我慢する):
目を静かに開き、ろうそくの芯のすぐ上にある、最も明るく輝く炎の部分(内炎)をじっと見つめます。
- ポイント: 睨みつけるのではなく、リラックスして焦点を合わせます。途中でまばたきをしたくなっても、できる限り我慢します。
- 涙を流す: しばらく見つめていると、目がじんわりと熱くなり、自然と涙が溢れてきます。涙が出たら、それが「クレンジング(浄化)」のサインです。
- 残像を見つめる(内視への移行): そっと目を閉じます。まぶたの裏に炎の残像(黄色や青紫の光の点)が現れるので、その残像が消えてなくなるまで、意識を集中して見つめ続けます。
- 休息: 残像が完全に消えたら、両手のひらをこすり合わせて温め、それを閉じた目の上に優しく当てる「パームアイ(Palming)」を行い、目の緊張を完全に緩めます。
トラータカのもたらす効果
[肉体的な効果]
- 涙による眼球の洗浄: 涙腺が刺激され、古い涙や老廃物が排出されることで、眼球が物理的にクレンジングされます。
- 視覚神経の調整: 目の周りの筋肉(毛様体筋など)の緊張がほぐれ、眼精疲労の緩和や視力向上に役立つとされています。
[精神的・エネルギー的な効果]
- 集中力(ダラーナ)の飛躍的向上: 意識の散漫を防ぎ、1つの点に全エネルギーを注ぎ込む訓練になります。
- 第3の目(アージュニャー・チャクラ)の活性化: 眉間の奥にある直感のセンターが刺激され、洞察力や直感力が高まります。
- 不眠の改善と深いリラクゼーション: 脳波がアルファ波やシータ波へと導かれ、高ぶった神経が鎮まるため、就寝前に行うと睡眠の質が向上します。
【実践上の重要な注意点】
- 網膜の保護: 太陽を対象にする場合は、完全に昇りきった強い日差しを絶対に直視してはいけません(失明のリスクがあります)。古典で太陽を対象とする場合は、日の出直後の非常に弱い光のみを指します。基本的には、ろうそくの炎や壁に描いた黒い点から始めるのが最も安全です。
- 目の疾患がある場合: 白内障、緑内障、重度の乱視や近視、眼精疲労が激しい場合は、無理にまばたきを我慢する外視法は避け、目を閉じて行う「内視法」にとどめるか、実践を控えてください。