2021年4月17日土曜日

腰痛に対し、腸腰筋(大腰筋・小腰筋・腸骨筋)による股関節屈曲運動および腰方形筋による体幹側屈運動が効果的な理由について。

 

腸腰筋=腰筋(大腰筋+小腰筋)+腸骨筋

腸腰筋=腰筋(大腰筋+小腰筋)+腸骨筋

■腰筋

起始:胸椎12番~腰椎5番の横突起、椎体外側面ならびに椎間板

停止:大腿骨小転子

作用:股関節の屈曲・外旋

 大腰筋と小腰筋は体幹と下肢をつないでいる筋肉です。腰椎の外側面から始まり、立位姿勢では遠位の脊椎を安定させています。この筋肉は骨盤帯の前縁部分に集中しているので、骨盤帯を屈曲させる役割もあります。腸骨筋に沿って大腿骨小転子に停止しています。

 腰筋と腸骨筋はともに、歩く、走る、跳ぶなどの動作において股関節を屈曲させます。大腰筋、小腰筋、腸腰筋は、同じ停止箇所と機能をもっているため、3つの筋肉がまとまって腸腰筋を形成しています。そのなかで腰筋、腸骨筋は共通の機能に加えて、それぞれ独自の機能に加えて、それぞれ独自の機能を持ち合わせているため、ここでは別々に紹介します。

 腰筋は姿勢を保つ際にユニークな機能を持っています。立位姿勢のときに腰筋は、腰方形筋と脊柱起立筋群とともに骨盤を前傾させます。これらの筋肉は骨盤を後傾させる腹筋と臀筋の力に対抗しなければなりません。これらのすべてが、体幹と骨盤のアライメントを保つために機能しています。

 骨盤姿勢筋の不均衡はよく起こり、そのために体幹部の痛みや機能障害を引き起こすことがあります。腰筋は長時間座ったり、運転をしていると拘縮します。この状態で上体を真っ直ぐにして立つと、拘縮した腰筋は骨盤を前方に引っぱり、その結果、腰椎を圧迫することになります。この姿勢を骨盤前傾と呼び、腰椎前彎そして腰痛を引き起こします。

■腸骨筋

起始:腸骨窩、仙骨翼

停止:大腿骨小転子

作用:股関節の屈曲

 腸骨筋は股関節の屈曲と外旋の主動筋です。この筋肉の起始は仙骨の内側部分にひろがっており、筋繊維は大腿骨小転子で腰筋に交わり停止しています。この筋肉の主な機能は、歩く、走る、跳ぶ、蹴るなどの動作での股関節の屈曲です。

 荷重動作では、腸骨筋は骨盤を前方へ引き出す補助をしていますが、起始が違うため、脊柱における役割は腰筋と同じではありません。筋力、柔軟性、腸骨筋のバランスの保持することは、良い姿勢を保ち下肢機能を保全するために重要なことです。

※参考文献 「ヴィジュアル機能解剖学 南江堂」

■腸腰筋

 腸骨筋は、股関節屈曲の作用が主であり、前額面と水平面での作用は無視できるほどに小さい。一方、大臀筋は、股関節における水平面での作用は無視できるほどに小さいが、屈曲とともにわずかに内転の作用を有する。さらに、大腰筋は、股関節の作用に加えて、腰椎の側方に位置するため腰椎を同側に側屈させるモーメントアームを有する。

 また、歩行および走行においても、大腰筋と腸骨筋の筋活動パターンは異なる。腸骨筋は、立脚中期以降、遊脚期の初めにかけて活動するが、大腰筋は一歩行周期のなかで活動する時期が2回あり、ともに左右下肢の接地のタイミング付近となっている。このことから、腸骨筋は股関節屈曲筋として機能する一方、大腰筋は股関節屈曲筋としての機能よりむしろ腰椎の安定化のために活動している可能性が考えられる。

 大腰筋の大部分は外旋作用、腸骨筋は内旋作用を有すると考えられるが、腸腰筋全体としてはわずかに内旋モーメントアームを有する。

 大腰筋の腰椎への作用は、前額面における作用(側屈)が最も大きいが、矢状面における作用は腰椎の肢位により変化する。腰椎が屈伸中間位のときは、腰椎上部のレベルにある繊維はわずかに伸展作用を、腰椎下位のレベルにある繊維は屈曲作用を有する。しかし、腰椎が伸展位にあると最下位のレベル(腰椎5番ー仙骨1番レベル)を除いて大部分の繊維が伸展作用を有し、腰椎が屈曲位にあると大部分の繊維が屈曲作用を示す。またいずれの肢位でも大腰筋の収縮により腰椎に圧迫力と主に前方への剪断力が加わる。圧迫力と剪断力は腰椎下位のレベルになるほど大きくなる。

※参考文献 「身体運動学 メジカルビュー社」

 大腰筋には、腰椎側屈作用と、腰椎の安定化作用があります。側臥位から体幹を起こすとき、立位で体幹を側屈するときに、大腰筋と腰方形筋による腰椎側屈が起きます。重いものを持ち上げようとするときに、大腰筋は腰椎を安定化させるためにスタビライザーとして機能します。

 腰痛がある人には、腰方形筋に圧痛があることが多いです。腰方形筋による体幹側屈運動・骨盤挙上運動や腸腰筋による股関節屈曲運動を行うことで、痛みが緩和・消失することがよく知られています。
 腰方形筋の筋緊張が亢進して圧痛が出現している理由は、腰椎の前彎を腰方形筋でつくろうとしているためだという仮説があります。腸腰筋による股関節屈曲運動を行うと、腰方形筋の筋緊張が低下します。腸腰筋による腰椎前彎をつくる機能と、腰方形筋による骨盤挙上の機能分担ができたことにより、腰方形筋で腰椎前彎をつくらなくてもよくなったためです。
 安部塾ではサイアークスをはじめとした股関節屈曲運動を反復練習します。簡単な動きなので「そのくらいできる」とバカにされがちですが、腸腰筋による股関節屈曲運動は奥が深いので、やればやるほどその難しさに驚くこととなります。