2024年1月29日月曜日

小脳はからだを速くなめらかに動かすときや、運動技能の修得に重要な役割を果たしています。運動失調(筋肉の協調障害)とフィードフォワード制御。

 小脳とは、運動機能の調節や、平衡・眼球運動の調節を司る、脳の部位の一部です。 後頭部の下方に位置し、見た目はカリフラワーのような形状をしています。 小脳は、大脳皮質・脊髄・前庭神経系からの情報を受け、身体の各器官の運動機能を調整しています。

小脳

 小脳は、身体各部の受容器や大脳からの信号を受け、延髄の前庭神経核や小脳核(反射中枢)に運動を制御する信号を投射します。複数の筋活動の相互関係を計算して協調的な運動を実現させます。小脳に記憶が蓄積され、その記憶は誤差の情報で修正されるという理論があります。

 小脳が障害されると、運動における推尺の異常や各種の運動失調を惹起します(ボールがキャッチできない、キックできない、腕があがらない、ポイがまわせない)など。手で物を取ろうとするときに最短距離で手を伸ばすことができず、ぐらぐらと揺れながら手を伸ばしたり、目標の物を掴み損ねたりします。

 小脳による運動制御の特徴は、伸張反射(負荷時に筋張力を与える)などとは異なり、閉回路(閉ループ)をもつフィードバック制御ではないという点です。多数の筋肉が関与する複雑な運動時に、いちいち出力を検出しながら発生したエラーを操作器の側に帰還させようとすると、迅速な行動が実現できません。信号伝達の遅れに起因する行き過ぎた動き(オーバーシュート)が生じて病的な振戦(不随意でリズミカルなふるえ)を引き起こすことになります。動作が行き過ぎたり戻り過ぎたりしている人を観察してみると、間に合わなくなって処理が追いつかず固まって振るえているのがよくわかると思います。

 小脳は、協調的な運動の制御を図り、諸問題を回避するために、あらかじめ筋張力などの目標値を設定し、これに基づいて信号を一方的に投射する開回路(開ループ)をもつフィードフォワード制御が実現させています。

 前庭動眼反射弓と呼ばれる制御システムは、物体を注視しているときに(受動的または能動的な運動によって)頭の位置が変化した場合に、その動きに応じて眼球の方向を調節することによって、視野にブレが生じないようにはたらきます。

 頭の動きに関する情報は、頭位の運動を検出する平衡器官から小脳を経由して前庭神経核に送られ、ここでさらに動眼神経細胞に興奮↔抑制を指示する信号に変換されて眼の動きを調節するのに使われます。眼球の運動によって視野のブレが補償されたかどうかの情報は、中枢神経系には送られるものの、これを前庭神経核へと伝達する経路は存在せず、負のフィードバック制御が行われている訳ではありません。

 対象物体から視線を外さずに正しく注視し続けることができるのは、頭部がどの程度動いたかという情報をもとにして、視線を一定に保つのに必要な眼球の回転角を小脳で計算し、この目標値に向かって運動筋をフィードフォワード的に制御しているからです。視線が外れるのは、演算が間に合っていないからだと考えられます。

 小脳は、三半規管から得られた回転速度に関するデータを積分するなどの目標値を求めるための演算装置として機能しており、この計算に必要なさまざまなバラメーターは、介在するニューロン(情報の伝達と処理に特化した神経細胞)におけるシナプス結合数や後シナプス電位の形で、学習を通じて小脳内部にインプットされています。

 小脳が運動を制御する演算装置だと考えれば、運動をシミュレート(ある状況や場面を想定したうえで、それが再現可能かどうか試してみる~模擬・模倣)しながら必要な筋張力の値を計算し、これをもとにそれぞれの筋肉を支配する大脳運動野の各部位に適切な『準備(運動に数百ミリ秒ほど先だって大脳運動野に運動準備電位を誘起する)』をさせているということになります。

 準備電位が誘起された状態において、筋張力それ自体は変化しません。これから実行する運動で収縮する筋において、伸張に対する脊髄反射が増幅し、逆に弛緩する筋の反射は減少します。運動の実行以前にその状況を予測してしかるべき目標を設定するフィードフォワード制御がはたらいているのです。

 歩くとふらつく(腕や脚をうまく制御できず、歩幅が大きくなって歩行が不安定になる)、バランスがとれない、転ぶ、ろれつがまわらない、動かそうとすると手がふるえる、知的障害やてんかん、全身の不随意な動きを合併する、動きが乏しい、筋肉がこわばる、しびれや感覚の鈍さなど……運動がスムーズにできなくなる運動失調~協調運動障害は小脳の機能不全が原因なのかもしれません。

 動くときは、まずはじめに大脳皮質で運動を企画します。その情報が小脳に入り、実際に運動が行われた時の手足からの感覚が脊髄経由で小脳に入ります。この2つの情報を比較して企画した運動の仕方と実際に行われた運動にズレがないかどうかを確認し、必要であれば修正をするよう大脳皮質に情報を送ります。手足や体幹の精密でなめらかな運動が可能となるのは、この制御のお陰なのです。