アナトミー・トレインー徒手運動療法のための筋膜経線 第4版 医学書院 より引用します。
着座は、問題をはらんだ危険な動作である。バランスのとれた筋経線による着座はまれである。程度の違いはあれ、座るという動作では、下肢の支持機能を除外し、骨盤を分割型のテント支柱である脊柱を支える主要基盤としている。
座った状態での脊柱の適切なバランスは、立位での適切なバランスに近く、ゆったりと完全に進展し、頭部、胸部、骨盤からなる体重の大部分が、程度の差はあれ、股関節臼上部と同じ冠状面の前側座骨結節上でバランスをとっている状態である。
次のうち1つ、ないしそれ以上が生じるような座り方の不適切な習慣は、きわめて簡単に身につく。
1. 下部頸椎の屈曲により頭部が前方に出る。
2. 上頸部が過伸展する。
3. 胸部と胸郭前部が落ち込む。
4. 上位腰椎が後方に移動し屈曲する。
5. 体重が座骨結節後面にかかるように骨盤が後退する(すなわち、骨盤突端が尾骨に向かう)。
上記に示した状況は、必然的にSFLの短縮とDFLの一部の短縮に関連する。ここで示した特定の着座パターンに応じて、身体の持ち上げにはSFLの体幹部分に沿った組織の引き伸ばしと挙上がしばしば関与する(腹直筋に関連する膜面など)。前面の組織が下垂すると、多くの場合SBLの組織(脊柱起立筋とその膜)は遠心性の負荷によって広がる。したがって、SBLの組織を正中線の内側と下方へ矯正することで、対象者は容易に支持性の高い安定した座位がとれるようになる。
前面組織を挙上・拡大することと後面組織を下制・収縮する戦略が、 着座姿勢における健全なコア強化のための簡単で機械的な前段階アプローチとなる。 |
また、多くの場合、対象者にDFLを「機能させる」(より緊張を持続させる)ことも不可欠である。具体的には、腰椎を前方に安定させて胸部を持ち上げるために、腰筋を機能させなければならない。また、頸椎椎体の前側に位置して頸椎を前方に保持する深層の頭長筋と頸長筋は、SFLとSBLの関連組織が上部頸椎を過伸展させる傾向を緩和するために、正常に機能する必要がある。脊柱の直前と咽喉の直後でこれらの筋の持続的な緊張を獲得することは、腹横筋の緊張と同程度の「コア・コンピテシー」保持の必要条件となる。
頭長筋と頸長筋 |
いったんバランスをとって座れるようになったら、神経とそれに従属する筋の両方が変化に合わせられるようになるまで、数日、あるいは数週間、熱心に練習すべきである。意識的に注意する最初の期間を過ぎると、ほとんど努力せずにこの座り方で何時間も座り続けることができるようになる。この場合、呼吸能力や注意力が減少することはなく、構造的な痛みも発生しない。 198P
引用ここまで
安部塾では、頭長筋と頸長筋を使っての頷き(うなづきorうなずき)運動と、肩甲骨の下制・肩甲骨間部の収縮を基本所作としております。肩甲骨を下げつつ寄せながら、うなづ(ず)くことで座位姿勢が改善されます。
うなずく(づく)は、漢字で書くと「頷く/首=肯く」。「項うな突く」の意で、承諾や同意などの気持ちを表すために、首を縦に振る動作です。
首肯(しゅこう)は、うなずくこと。納得し、賛成すること。承諾すること。肯定すること。
頷くは、了解、肯定、承諾、勧誘などの気持を表わすために首を縦に振る。首を前へ曲げて合図する。心中で納得、了解する。合点する。うべなう。
他者を肯定できていない人は、なかなか首を縦に振りません=うなづきません。少し観察してみるとすぐにわかりますが、腕を組んで、自分の考えに合った内容の話しか聞かないという構えをしております。腕組みをして相手の話を聞いても、その内容はほとんど記憶には残りません。腕を組まずにうなづきながら相手の話を聴いている人は、その内容をよく記憶しています。
安部塾では、肘掛け椅子をすすめておりますが、肘置きがあることで腕を組む機会を減らす効果があり、結果的に記憶に残る学びができるという効果があります。
腕組みには、相手に対して否定的な感情を抱いているという身体メッセージがあります。なので、相手視点で見た場合、返報性の法則で「否定的な人」という印象となります。相手や相手の話に反対意見や否定的な感情を持っているとみなされるため、さまざまな機会損失につながります。腕を組むことで、自分と相手との間に壁をつくり、相手に踏み込ませない、心をひらかないという意思表示となるからです。
話が長くなりましたが、身体操作的に腕組みを解除するには、「コア・コンピテシー」の保持が必要になります。理想的な座位姿勢がとれないと、相手の話を聴くことはできないからです。当然のことなのですが、楽にうなづけない人に、相手を肯定するという動きはできないのです。