疾病利得(しっぺいりとく/Secondary Gain)とは、無意識のうちに「病気や不調の状態にあることで得られる心理的・社会的・実質的な利益や免除」を指す精神医学・心理学の概念です。
本人が意図的に嘘をついて得をする「仮病(詐病)」とは明確に異なり、本人も苦痛や症状に真剣に悩んでいるものの、深層心理(無意識)レベルでその症状が存在することによるメリットに執着してしまう状態を言います。
疾病利得の2つの分類
フロイトの精神分析理論では、疾病利得は大きく一次的利得と二次的利得に分けられます。
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一次的利得(Primary Gain)
- 心理的な負担からの回避: 内面的な強い葛藤、罪悪感、抑圧された不安などの心的な痛みから、心が自分を守るために症状を作り出す(転換・身体化する)ことによって得られる心理的利益。
- 例: 強い恐怖を感じる仕事に直面した際、声が出なくなったり激しい腹痛が起きたりして、内面的な葛藤から直接回避できる。
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二次的利得(Secondary Gain)
- 環境や周囲からの社会的・環境的利益: 病気の症状があることによって、外部の環境や人間関係から得られる具体的なメリット。一般的に「疾病利得」と言う場合、この二次的利得を指すことが多く見られます。
- 例: 周囲からの同情や関心(関心獲得)、重い責任や過剰な仕事の免除(免除獲得)、労災保険や障害手当などの金銭的給付。
代表的な具体例
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責務の免除・回避
- 苦手な上司との交渉や家庭内の過剰な家事負担に対し、体調不良を理由に正当に回避・休養できる。
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関心やケアの獲得
- 普段は放置されがちな環境で、不調を訴えることで家族や周囲からやさしく気遣ってもらえる(愛着欲求の充足)。
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責任の回避・自己防衛
- 「体調さえ万全なら成功できたはずだ」という口実を作ることで、失敗した際の自尊心の低下を防ぐ(ハンディキャッピング)。
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制度的・金銭的補償
- 症状が残っていることで休業補償や給付金を受け続けられる。
疾病利得が引き起こす問題点
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症状の長期化・慢性化(遷延化)
- 心理的なメリットが存在するため、適切な医療的治療を行ってもなかなか症状が改善しなかったり、原因不明の不定愁訴が長引いたりします。
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無意識の抵抗(治療への抵抗)
- 表面上は「早く治したい」と強く願って努力しているものの、無意識下では「治ってしまうと困る(免除されている嫌な生活に戻る、関心を失う)」ため、無意識のうちに回復を阻害する行動をとってしまいます。
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対人関係の不和
- 周囲が慢性的なケアに疲弊(看護バーンアウト)したり、無意識の操作性に気づいて不信感を抱いたりすることで、関係性が悪化することがあります。
アプローチ・克服に向けた考え方
疾病利得の解決には、症状そのものを責めるのではなく、「症状によって満たそうとしている本当のニーズ」に目を向けることが重要です。
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無意識のニーズの言語化
- 心理療法(認知行動療法やカウンセリングなど)を通じ、自分が何を回避したいのか、あるいは何を求めているのか(休養、境界線の設定、他者への助けの求め方)を自覚する。
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健全な手段でのニーズ充足
- 「体調不良」という免罪符を使わずに、境界線を引く(断る)、休息を取る、言葉で助けを求めるといったコミュニケーション手段を身につける。
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周囲の接し方の調整
- 周囲は「病気の訴え」に過剰に反応して過保護になりすぎるのを避け、健全な行動や回復への前進に対して関心や承認を与える姿勢に切り替える。