道具を使ったパフォーマンスの練習をすると、「自分を中心に道具を動かしたいタイプ」なのか「道具を中心に自分が動くタイプ」なのかわかります。私は「天動説タイプ」と「地動説タイプ」という分類をしています。ポイやスタッフなどのジャグリングのテクニックがすぐに理解できるのは「道具を中心に自分が動くタイプ」です。エクストリーム系スポーツの人たちもそうです。
対人関係においても、「自分が中心になって、周りの人たちを動かしたいタイプ」と「状況に合わせて自分が動くタイプ」に分かれると考えています。私は後者のタイプなので、類友の法則で「状況に合わせて自分が動くタイプ」の人たちと相性が良いです。後者には我執(自分中心の考えにとらわれて、それから離れられないこと。我を通すこと。自分の意見をがんばって通すこと。)があまり見られないからです。
少し観察してみればすぐにわかりますが、我を通そうとすると孤立化します。自分を中心に世界がまわるなんてことはないからです。物事には自然な流れというものがあって、それに逆らうとうまくいかなくなります。少し前に「フロー」という考え方が流行りました。ミハイ・チクセントミハイが1970年代に名付けた概念で、「ゾーン」とか「ジャックイン」と呼ばれることもあります。集中して没頭できている状態で、気づいたら時間が経っています。リラックスしていながら、同時に適度なストレスがかかっている状態がつくれると、時間が経つのを忘れて楽しめます。
時々、我執に囚われているために自分だけ浮いてしまってつまらなさそうにしている人がいますが、時がなかなか経たないのを周りの人たちのせいにしていて、リラックスも集中もできていないのが観察できるかと思います。ミラーニューロンを駆使すれば、他者がやっていることを脳内で体験でき、共感が生まれます。つまり、一緒になって楽しめるのですが、自分中心の考えにとらわれて、それから離れられないでいると共感ができないために「自分ならこうするのに」という楽しめない状態に陥ることになります。
時間の過ぎるのも忘れて活動を続けているとき、人は永続的な満足感を得られます。集中した状態では、いつもは無意識に行っている外部から自分自身の状態をモニターする機能が薄れ(自意識が薄れ)、時間感覚が正確ではなくなります。面白いことに、「状況や活動を自分で制御している感覚」が生じています。「ビーイング・アット・ワン・ウィズ・シングス」(物と一体化する)と言われてきた状態ですが、我執から離れたことで状況や活動を自分で制御できるというちょっと矛盾したことが起きています。
自分が動かずに他者を動かそうとすると幸福感が失われます。他者が思い通りに動いてくれたときに感じる支配欲や征服欲の充足は満足感をもたらしてはくれません。ある種の依存症に陥ることになり、さらなる支配欲や征服欲の充足を求めるようになります。自分の身体が自分の思うように動いてくれると幸福感に包まれ、時を忘れて忘我常態で「ピークエクスペリエンス」に浸れます。
道 TAO |
ピーク・エクスペリエンス=「至高体験」は、人生における「最高の瞬間」であり、多幸感を特徴とする意識の変性状態です。好きで夢中になれることがあると、ピーク・エクスペリエンスが得られます。好きで夢中になれるとき、「状況に合わせて自分が動く」という状態になれるからです。
夢中になれる何かがある=自分がしたいことがわかっているというのは、それだけでもう幸福なことなのだと思います。