2023年2月28日火曜日

運動時、下顎は身体のバランサーとして機能します。美しい顔立ちは、正しい下顎のポジショニングから生まれてきます。

  エッセンシャル・キネシオロジー 南江堂 より引用します。

開口・閉口の際の筋肉と関節の状況

1)開口運動の概要

 大きく開口する運動は、主に外側翼突筋下頭の収縮によって生じる。舌骨上筋群と重力は、この働きを補助する。Aのように、開口では、下顎骨の下制と関節突起の前方への並進(前突)を伴う。外側翼突筋(下頭)は関節突起前方への並進を制御し、舌骨上筋群は下顎骨の下制に働く。

2)閉口運動の概要

 歯で噛み砕く場合のように、しっかりと閉口する運動では、咬筋、内側翼突筋、側頭筋の強い収縮が必要となる。Bのように、閉口は、下顎骨の挙上と後退を伴う。閉口しているしだ、外側翼突筋上頭がもっとも活発に収縮し、関節内で関節円板が元の位置に戻るのを誘導する。興味深いことに、上頭の腱だけが関節円板にしっかりと付着する。

 口を開閉する際、関節円板は位置を調整することによって開閉運動を滑らかにする。外側靱帯と外側翼突筋(上頭)は、顎関節が最適なアライメントとなるように、関節円板の運動を導く。関節円板と顎関節の動きが同期せず、非対称の動きになると、しばしば痛みを引き起こしたり、クリック音がしたり、極端な場合では顎関節のロッキング(嵌頓症状)を生じる。
下顎骨の左側への移動に伴う筋の複雑な相互作用

3)側方運動の概要
 咀嚼とは食物を噛み砕くことであるが、側方運動は咀嚼の主要な要素である。側方運動は、咀嚼に関わる4つの主動作筋の相互作用を必要とする。たとえば左への側方運動には、左の側頭筋と咬筋の収縮、および右の内側翼突筋と外側翼突筋の収縮が、主に必要となる。


要約
 発語、嚥下、咀嚼は、日常生活に不可欠な機能であり、顎関節が適切に機能することが必要となる。さまざまな整形外科的外傷や障害は、顎関節に影響を及ぼし、身体の機能レベルに重大な影響を及ぼしかねない。

引用ここまで

 安部塾では、顎関節の機能改善エクササイズを重視しています。運動時、下顎は身体のバランサーとして機能します。顎関節と体軸 (頸椎,脊椎,腰椎)には密接な関係があります。顎関節の機能不全が、神経圧迫や血管を圧迫することにつながり、様々な全身随伴症状や不定愁訴を引き起こすことがよく知られています。

 下顎の正常な位置は、身体の中心軸に対して、下顎が前後および左右(側方)に正しい位置し、立位において、身体の中心軸が前後および左右(側方)に正しい位置にあり、下顎が後方に引けていたり、前に突き出ていたりせず、顔立ちがもっとも美しく見える位置となります。

 下顎は頭蓋骨の位置と、上半身の姿勢バランスをコントロールするメカニカルバランサーとして機能しています。長期間の姿勢バランス崩壊が続くと、その代償として生まれる下顎骨の傾きの継続化によって、顔の歪みが深刻化してしまいます。下顎位置異常が常態化している人は、顔の骨や筋肉が悪影響を受けているために、目や鼻や唇などの顔のパーツが歪んで醜くなってしまっています。

 下顎の咬筋は目の下の頬骨につながっています。当然、目の周りの筋肉が影響を受けることになります。左右の咬筋のバランスが崩れることで、左右の目のbランスもくずれてきます。鼻や口元の周りの筋肉も悪影響を受けて顔全体が歪み、見た目の印象を含めてさまざまな問題が生じる展開になります。

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2023年2月27日月曜日

異常な頭部位置と顎関節症。顎の不調は、頭部前方位姿勢が原因かもしれません。

 エッセンシャル・キネシオロジー 南江堂 より引用します。

 頭部前方位の姿勢では、下顎が後方-下方へ牽引へされることにより、受動的な緊張が引き起こされることを示す。

頭部前方位

 舌骨上筋と舌骨下筋は共同して作用し、開口の際に落ち込んでいた下顎骨を効果的に引きつけることを可能にして、舌骨筋を安定させる。舌骨下筋は舌骨上筋を効果的に下顎にhき上げることができ、舌骨筋を安定させる。しかし、頭部と頸部の異常なポジショニングが、これらの筋全体を牽引し、そのため顎関節(TMJ)のストレスを増大させる。

 頭部前方位の姿勢は一般に、上部胸椎と下位頸椎のわずかな屈曲を伴う。この姿勢は肩甲舌筋や胸骨舌筋のような舌骨下筋を引き伸ばし(ストレッチし)、舌骨を後方および下方に引き付ける。この力は、その後、舌骨上筋を介して下顎骨に移行し、下顎骨を後方および下方に引く力を生じる。

 時間の経過に伴い、関節窩における下顎骨の持続的な後方への圧力が関節円板を圧縮し、過度な痛みや炎症を引き起こす。一部の人は、下顎を前方に引き出すことにより、顎関節に対する負荷を軽減させるために機能する外側翼突筋における、疼痛を伴うスパズムを経験する。この外側翼突筋のスパズムは、関節円板のずれを引き起こす。 外側翼突筋があまりにも下顎を前方に引き付けると口の開閉中に下顎のクリック音を引き起こしてしまうからである。もし関節円板が「脱臼」したままであれば、下顎のささいな動きですら関節円板へ大きなストレスを与えてしまい、永続する痛みの病的代謝を引き起こす。

 引用ここまで

 頭が前方に位置する姿勢にはさまざまなデメリットがありますが、顎関節の不調もそのひとつです。

頭部前方位姿勢

 頭部前方位では顔がブサイクに崩れてしまいます。なので、頭部中間位姿勢に戻すことで顔が美しくなります(当人比)。顎の不調は昨日の記事で書いたように、不快な発生の原因にもなります。頭部中間位に戻すことで美声になります(当人比)。

 正しい姿勢を維持し、練習することは、骨、筋肉、靭帯にかかるストレスを防ぐ上で重要な習慣です。

 頭を前方に動かすと、肩も前方に引っ張られ、前に丸められます。その結果、背中の上部が引っ張られ、背骨が必要以上に弯曲し、胸椎が過度に弯曲した異常な猫背姿勢になります(胸椎過剰後弯症)。

 頭が中間位置にあるとき、首が伸びます。しかし、習慣的に頭を前に傾けていると、頭蓋底の筋肉が短くなります。短縮された筋肉が頭蓋骨を引っ張り、頭痛を引き起こす可能性があります。頭部前方位では、頭部中間位のときの最大 5 倍の負荷が首にかかります。そのストレスの多くは、頸椎から、それを支えるはずのない筋肉に伝達され、首をまわしたり傾けたりする能力を低下させる可能性があります。


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2023年2月26日日曜日

肩甲舌骨筋が過緊張して硬くなると、発声に問題が生じます。透明感のないノイジーな声になるため、周りの人に与える印象も悪くなります。

 今日の新宮校ワークショップで、肩甲舌骨筋について解説しました。

肩甲舌骨筋

 ■肩甲舌骨筋

起始:肩甲骨の上縁

停止:舌骨体

作用

①舌骨を押し下げる(固定する)。

②咽頭と舌骨を押し下げる(発声と嚥下の最終相)。

③中間腱で頸筋膜を緊張させ、内頸静脈の開存を維持する。

 肩甲舌骨筋は頸部の筋膜を緊張させ、深い吸気作用の間、首部がしぼむのを防ぎます。肩甲舌骨筋の収縮は、深い吸気の間、首の大きな血管ならびに肺の先端が、圧縮されのを防ぎます。

肩甲舌骨筋

 図を見れば一目瞭然ですが、肩甲舌骨筋は舌骨を起始とし、胸鎖乳突筋・前中後斜角筋を通り肩甲骨に付着する2つの筋腹をもつ二腹筋です。二腹筋には、眼球の上斜筋、顎の顎二腹筋もあり、自由な動きに欠かせない機能があります。

顎二腹筋

 肩甲舌骨筋が過緊張して硬くなると、発声に問題が生じます。肩甲舌骨筋が浮き上がるほど硬く過緊張させている人は、喉詰め発声や過緊張性発声をします。甲状軟骨が頚椎方向ならびに下方に圧着させられてしまうためです。

 喉詰め発声では、喉周辺の筋肉が過緊張状態に陥っているために声の自由が奪われてしまします。喉頭の位置を上げることによって口内空間を狭くすることで、疑似的に高音を出そうとするため、喉が上がって声門閉鎖が強くなります。

 機能性発声障害(痙攣性発声障害や過緊張性発声障害など)は、舌の力みによって本来の発声の生理的機能が崩壊して、二次的な発声回路が出来てしまった状態です。舌が力んでいる発声することで、連鎖的に軟口蓋(のどちんこ)も力みます。軟口蓋が力んだ状態で無理やり発声すると、良い声は出ません。

 そして、喉頭の位置や下の動きに関連する下顎の力み(肩甲舌骨筋などの過緊張)が問題になります。透明感のないノイジーな声になるため、周りの人に与える印象も悪くなります。

 間接的に下顎が下方に下げられるため顎骨位置異常が起き、口呼吸、低位舌、異常嚥下という異常習癖が常態化します。また、顔が長くなってしまいます。口呼吸という異常習癖が常態化することで、口周りの筋肉が緩にで前歯に舌の力がかかり、前歯が前方に押し出されます。顔の筋肉が緩むことで舌根が沈下し気道が塞がれて呼吸が止まります。眠っている間に呼吸が止まるのが、睡眠時無呼吸症候群です。

 耳管の開口部が圧迫され開口部が塞がれ、中耳(鼓膜より奥の部分)に溜まった滲出液が排出されなくなることで急性中耳炎や滲出性中耳炎になりやすくなります。

 滑走不全に陥っている肩甲舌骨筋をほぐすことで、絞扼感の軽減とともに楽に声が出させるようになり、さまざまな恩恵が得られます。

 各地のワークショップで解説します。

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2023年2月23日木曜日

首を自由にして、頭から動く。部分的に直そうとするのではなく、全身の動的バランスを改善する。

 古典的な誘導の仕方に、「首が自由に、頭が前に上に〜」という文言があります。立位において、抗重力姿勢をとると、立位姿勢の保持のために、抗重力筋群を使います。

 頭にはそれなりの重さ(数Kg)があります。脊柱の上に頭をのせて全身を支えるため、脊柱周りの筋肉を過緊張させてガチガチに固めてしまう人がいます。無理やり良い姿勢をつくっているので、すぐに疲労困憊してしまいます。

 姿勢保持の正解は、脊柱の上で動的にバランスをとることです。しなやかに美しく、重力の変化に対応していくことです。そして、そのためには、首を自由にして、脊柱を長く保つ必要があります。

 動きが破綻し、崩壊している人を観察してみましょう。身体のどこか一部を過剰に意識して、動きの全体性が失われているのがわかると思います。動きが連鎖せずに、どこかで途切れてしまうのです。ガチガチに固めたパーツとパーツの間で身体構造が壊れていきます。負荷が全身に分散してくれずに滞り、特定の部位に集中することになります。

 頭の動きが他の部分の動きと状態を調整しているという初源的調整作用が働いていないということです。

 動きが破綻している人は、「〜を直す」という発想をします。動きが整っている人は、「全体的な動きが改善された結果、〜が直る」という発想をしています。頭と脊柱全体の機能を邪魔しなければ、全体がうまくはたらくことが身体で理解できています。

 身体のバランスをとるための、本来的・生来的メカニズムを使えば、努力せずに立て、動きが流動的になります。頭と脊柱の動的な関係を理解し、初限的調整作用が正常に機能できる状態をつくること=首を自由にすることで、より効率よく身体を使うことができます。

 試しに、首をガチガチに固めて腕を上げてみてください。腕が上がらないだけでなく。呼吸が苦しくなって、脚まで固まってしまうのがわかるはずです。首が固まると。身体全体が固まってしまうのです。

 困ったことに、身体を固めるという行為にはある種の快感が伴うため、なかなか固めるという行為をやめることができない人がいます。力んで動くことで充実感を得ようとするわけですが、その一瞬はよくても、すぐにより厄介な不調に悩まされることになります。

 明日の名古屋ワークショツプ、明後日の神戸ワークショップで、この記事の内容を解説します。

 不調を訴えている人は、どこか特定の一部分の使い方を部分的に修正しようとします。

 

 


2023年2月22日水曜日

正しい股関節の位置が理解できると、エクササイズの効果が高まります。

 

正しい股関節の位置

 股関節の正しい位置を探すときは、まず大腿外側の大転子を触り、そこから内側やや上方向に移動させて、鼠径部と交わるあたりを目安にします。

 股関節の正しい位置がわからないと、エクササイズをするときの正しい動きをイメージすることができません。上の写真は、その1例です。正しい動きで歩くことも、走ることもできません。エクササイズをすればするほど調子が悪くなってしまう人は、正しい股関節の位置がイメージできているかどうかチェックしてみるといいかもしれません。

 股関節は寛骨臼と大腿骨頭で構成される関節です。大腿骨頭は大腿骨の先端にあります。

股関節

 大腿骨は頚部から寛骨臼に向かって曲がっているので、股関節の位置は大腿部の側面よりもかなり内側になります。

 まず大腿骨の大転子に触ります。そのまま内側やや上方に指をずらしていき、脚の付け根(鼠径部)と交わるあたりに股関節があります。


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医療デマに踊らされて健康を害する人たち。目的を実現するために選択した手段が、いつの間にかそれ自体が「目的」になってしまうという問題。

https://comic-zenon.com/article/entry/2020/08/07/120000

 目的を実現するために選択した手段が、いつの間にかそれ自体が「目的」になってしまうことがあります。いわゆる『手段の目的化』です。

 目的とは、「成し遂げようと目指す事柄。行為の目指すところ」の意味です。  

 手段とは、「目的を達するためにその途上で使う方法」の意味です。

 目的とは目指す事柄をいいます。そして、その事柄を実現する行為・方法・要素が手段となります。

 何かを成し遂げようとするとき、目的と手段はセットになっています。

「~実現のために、~する/~がある」という型になります。たとえば、「良好な健康状態を維持増進する(=目的)ために、エクササイズをする=(手段)」、「良好な健康状態を維持増進するため(=目的)に、体重を適正化する(手段)」といった感じです。

 ある1つの目的は、より大きな目的の下では手段となります。自分がどのレベルに目線を置くかによって、何が目的で、何が手段かが、相対的に決まってくることになります。あるひとつの目的を達成した後に、次の新たな目的を掲げ続けると、この目的と手段の入れ替わりが連続していくことになります。

 これは、何を達成したいかという目線が下がることで、目的と手段の入れ替わりが起こるということでもあります。

 エクササイズが目的化して健康状態を害してしまう人。

 ダイエットが目的化して健康状態を害してしまう人。

……よく見かける光景です。

 「健康のためなら死ねる」っていうのもありましたね。

 医療系の危険なデマに踊らされている人たちにも、目的と手段の入れ替わりが起きていて、からだによいことをしようとして、かえって健康を害してしまっていることがあります。

 初期のThousand each rock さんが、医療系デマに騙されてありましたが、最近はかなりマシになられたように思います。

 医療デマ関連ツイートを拾ってみます。    

 そして、これ。 


  「アンサングシンデレラ」患者の不安エピソード無料公開は、一読の価値ありだと思います。

 『手段の目的化』がこじれないようにしましょう。

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2023年2月21日火曜日

足の裏の足底アーチの崩れと膝の不調、腰や肩の不調が同時に起きる理由。

 ファッシャルリリーステクニック 医道の日本社 057Pより引用します。

 足のアーチは、人間の身体の後ろ側に形成されている、一次的カーブと二次的カーブの連なりのうちの1つと考えることができるこれらの二次的カーブの形状(アーチも含めて)は、骨よりも、軟部組織のバランスによって決定される

一次的カーブと二次的カーブ

 アーチは本質的には二次的カーブである。一次的カーブ、二次的カーブという表現は通常、脊柱に対して使われる。

 一次的カーブとは、胎児や新生児の時にすでに存在している初期の弯曲から変わらずに残っているカーブのことであり、例えば脊柱の胸部のカーブや仙尾のカーブである。

 二次的カーブは生後、筋の発達に伴って発生する。頚のカーブは、子どもが頭を持ち上げることができるようになるにつれて発達し、脊椎の二次的カーブはその少し後で、子どもが座るようになって脊柱起立筋下部と腰筋複合体の間のバランスを発展させることにより形成される。

 この考えを身体の「上部」へと拡大すると、胎芽の脊柱を形成する部分と同じところから発展する脳頭蓋も含めることができる。頭部のカーブは一次的カーブ、頚のカーブは二次的カーブ、胸部のカーブは一次的、腰椎は二次的、仙尾のカーブは一次的である。

 そこからさらに「下部」へと目を向ける。膝のカーブは二次的カーブ、踵のカーブは一次的、足のアーチは二次的である(もしさらに続けるのなら、足の母趾球は一次的である)。

 つま先から額まで交互に身体をのぼる一次的カーブと二次的カーブの波について考えてみると、この一連のカーブの波がスーパーフィシャルバックラインと呼ばれる筋筋膜の連続体によってつながっていることがわかるだろう

 足のアーチは、後方から見てへこんでいる、バネのような働きをする。そして二次的カーブは体内に向けて引っ張られることで形成し、体内組織の緊張によって保持されている身体の他の二次的カーブといくつかの特徴を共有する

 一方の一次的カーブは最初から存在していたもので、骨によって保持されているため、動作のためのより安定した基盤となる

 引用ここまで

 ついでに言えば、体内にも、上口蓋や横隔膜の上向きアーチ(ドーム状)、骨盤底筋群(骨盤隔膜)の下向きアーチ(ハンモック状)があります。昨日の記事の「らせん」のお話につながってきます。

 身体のどこかに不調が生じたとき、つい「そこにだけ問題がある」と考えてしまいがちですが、実際は全体のバランスが崩壊しており、最弱部に問題が現出したにすぎない場合がほとんどです。

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2023年2月20日月曜日

らせん運動は、回旋運動と蝶番運動が交互に起こる構造によって可能となる。

  ファッシャルリリーステクニック 医道の日本社 056P より引用します。

 脛骨と腓骨は強力に結び付いているため、動きは限定的である上、そのほとんどは上部で起こる。この回旋運動(前腕の回内と回外に相当)は膝に影響している。それを実感するには、膝を曲げて、踵の上に臀部をのせて、床に座る。その状態で踵を内方向と外側方向に回旋するのが感じられるだろう。

 この運動は膝関節が屈曲している場合のみ可能である。膝関節を伸展した状態では、靱帯がそのような運動を防いでいる(膝を伸ばした状態でも踵を内側と外側に向かって動かすことはできるが、この場合、股関節の運動による影響となる)。

 通常の膝関節の運動は、屈曲と伸展する蝶番運動である。そしてもちろん股関節は、どんな動きも可能にし、多方向に動かすことのできる関節である。

 回旋運動と蝶番運動が交互に起こる構造は、同様に上肢や脊柱にも見られる。仙腸関節の限定的な蝶番運動、胸部下部の回旋運動、胸部中間部の椎骨の蝶番運動。頚の回旋運動、そして第1頚椎と後頭部の間の蝶番運動である。

 蝶番運動に制限があることで、いくつかの筋は動作のエネルギーを局所的に使うことができる。つまりもしも上肢や足の下部の関節がすべて回旋運動しかできなかったなら、それらの関節を安定させるためにはかなりの筋力が必要となるのである。

 蝶番運動(縦方向の動き)と回旋運動が交互に行えるような構造は、バレエのジャンプや空手のパンチのようならせん運動を作り出す。

直線運動と回旋運動の組み合わせ

 膝や肘で見られる蝶番運動は、直線的で1方向への動きを作り出す。股関節や肩関節など、その他の関節は、回旋を可能にさせ、多方向への動きを可能にする。直線運動と回旋運動を組み合わせることにより、人間はダンスや格闘技でしばしばみられるような、らせん運動が可能となる。

 引用ここまで

 これまでの、『静止した太陽を中心に地球などの惑星が公転する太陽系のモデル』を根本から覆す、『螺旋形の太陽系モデル』を紹介した3Dアニメーションがあります。 


 遺伝子の構造も二重らせんです。というより、この世にあるものは、らせん運動をしています。

螺旋回転

 弁証法に、「事物の螺旋的発展の法則」という法則があります。「物事の変化や発展、進歩や進化は、あたかも螺旋(らせん)階段を登るように起こる」というものです。

 「らせん階段」を昇っている人を見てみましょう。横から見ると、上に向かっているように見えます。しかし、上から見ると、らせん階段の中心を1周回って、元の位置に戻っているように見えます。けれど実際は、少しずつ、上に昇っているのです。

 縦方向の直線運動と回旋運動の合成によるらせん運動。それは、この世における、「進歩・発展」と「復古・復活」のらせん運動とよく似ています。何かを極めることができなくても、自らの水準を高めていけるということです。ぐるぐるまわっているだけに見えても、実は進んでいるのかもしれないということです。
 

禍福は糾える縄の如し 妓夫太郎

妓夫太郎:「禍福は糾える縄の如しだろ?いいことも悪いことも代わる代わる来いよ」

炭治郎:「人生には空模様があるからな。ずっと晴れ続けることはないし、ずっと雪が振り続けることもない」

謝花兄妹&竈門兄弟:「ずっと一緒だ!絶対に離れない!」

■禍福は糾える縄の如し
「史記‐南越伝」の「因レ禍為レ福、成敗之転、譬若二糾纏一」から) わざわいが福になり、福がわざわいのもとになったりして、この世の幸不幸はなわをより合わせたように表裏をなすものであるの意。この世の幸不幸は、縄をなう際に二本の藁束をより合わせるように交互に絡み合い、表裏をなしている。

 私たちは、禍福の螺旋からは逃れることはできません。

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足は美しい姿勢づくりの土台です。足裏をほぐして鍛えて、足趾のつかむ力を向上させましょう。

 安部塾では、足の機能改善を重視しています。足は身体を支える土台だからです。土台である足に異常があると、全身に大きな悪影響が出て、姿勢が崩れてしまいます。

 足の裏(足底)には、固有感覚受容器(センサー)であるメカノレセプター(機械受容器)があります。メカノレセプターが機能することで、立位バランス能力が向上します。メカノレセプターは、使わないでいると機能低下します。いわゆる「足底感覚」を養い、足部の筋肉群を発達させ、足底アーチ(土踏まず)を正しく形成し、足趾を機能的に使えるように訓練する必要があります。

 また、足趾の力は歩行運動だけでなく、走る・跳ぶ・投げるといったさまざまな運動に影響します。足底屈筋群のエクササイズにより重心動揺が減少し、立位が安定します。メカノレセプターに刺激を加え、姿勢制御反応の促通を目的とするエクササイズを行う場合、閉鎖運動連鎖で実施することが多いと思いますが、解放運動連鎖でのエクササイズでも重心動揺が有意に減少します。安部塾では、解放運動連鎖でのエクササイズを実施しています。

  ファッシャルリリーステクニック 医道の日本社 055-056Pより引用します。

 下肢関節は、1方向への自由(蝶番運動をつくりだす)と多方向への自由(回旋運動を可能にする)が交互に重なってできている。

 足の先であるつま先のさまざまな趾骨の関節はすべて蝶番関節であり、われわれが地面をつかめるようになっている。足の母趾球、5つの中足趾節関節は、つま先と中足骨頭の間で回旋運動が可能となっている。

 四角い中足底は蝶番運動のみを行うことができる(非常に小さいが、重要な役割を果たす)。この足の中間部の関節をほとんど動かさずに、強くて高いアーチを持ち、回外した足で歩く人を見てみよう。足部のわずかな弾力性の欠如が、歩行時の腰と背中にどれほどの影響を与えるかがわかるだろう

 足部でその次に重要な働きをしているのが、距骨下関節、または距踵舟関節である。この関節と、その上に位置する脛距関節は、一般的にまとめて足関節と呼ばれる。両方の関節は、関節包靱帯で覆われているため、捻挫して腫れを引き起こすと、両方の関節を動かすことができなくなる。しかし治療を行うという観点から見れば、われわれは距骨の上部の関節と、下部の関節を明確に区別しておかねばならない。

 距骨下関節は距骨を足の残りの部分の上で回旋させる。またはその逆、の役割を果たす。つまり、回旋関節である。回旋軸は真っ直ぐではなく、母趾のつま先の根元あたりから、踵の外側あたりに走り、内返しと外返しの軸を形成している

 足関節の上部の脛距関節はより真っ直ぐな蝶番構造となっている。距骨の上部は、ほぞ継ぎ構造(ほぞとほぞ穴を作り、角材同士を接合する方法)になっていて、脛骨と腓骨の底につながり、強力な繊維状の靱帯結合によって「結び付け」られている。この関節は、背屈と底屈だけを可能にする。

 引用ここまで

プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論 運動器系 より

 立位姿勢においては、多様なバランス戦略が求められます。足趾を含めた足部全体の柔軟性低下や感覚鈍麻、また過敏性による悪影響で、姿勢の保持が困難になってしまうことがあります。足関節および足趾を含めた足部全体に対するアプローチを実施することで、動作時に多様で効率の良いバランス戦略が展開できます。

 足趾トレーニングにより足底 の固有感覚の賦活が望めます。前方に偏位した重心を保持するためには、足関節底屈筋力だけではなく、前足部や足趾の屈曲方向への圧力も重要になってきます。足趾踵荷重立位は、立位姿勢で足趾屈曲筋群の等尺性収縮を促す運動課題であり、前方に移動した重心を制御する機能と同様の収縮動態となります。

 足趾踵荷重立位は、足趾屈曲筋を賦活させることで足底末梢部を有効支持基底面として姿勢制御に動員することを可能にします。その結果、前方制御機能を特異的に向上させることができ、転倒しにくくなります。足趾把持筋力の向上によって運足がスムーズになり、歩行率および最大歩行速度が向上します。また、足趾による制動力が高まるため、踵接地時の衝撃が緩和されます。

 足部内在屈筋エクササイズによる足部の筋力トレーニングは、立位姿勢保持の改善だけでなく、歩行・走行などの運動パフォーマンス向上に役立ちます。

 足趾の第2~5趾には、偏位した重心を中心に戻す作用があります。また、同側脚の第2~4趾圧迫力は片脚立位バランス能力と強く相関しています。※足趾(そくし、toe)~第1趾(母趾)、第2趾(示趾)、第3趾(中趾)、第4趾(環趾)、小指は第5趾(小趾)。

 安部塾では、足の機能改善にディープに取り組んでいます。

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2023年2月18日土曜日

姿勢が悪い人が、脊柱起立筋の組織を自然な位置に戻すことは有益であり、時にはそれだけで効果的となります。

  ファッシャルリリーステクニック 医道の日本社 より引用します。

脊柱起立筋(スーパーフィシャルバックライン)

 当然ながら、脊柱起立筋は脊柱や胸部の位置にさまざまな影響を与えている。まずは矢状面におけるバランスを整える必要がある。これは、屈曲や伸展のさまざまな角度に対応するためであり、脊椎の第1カーブと第2カーブのバランスを整えるためである。

 脊椎が屈曲し、脊柱起立筋の筋膜が制限されていると、脊柱起立筋は棘突起から遠ざかるように外側に移動する傾向がある。

 脊椎が比較的伸展している時は、逆の現象が起こる。脊柱起立筋の筋膜が、棘突起に向かって近づくように作用している。

 脊柱起立筋の組織を、より自然な位置に戻すことは有益であり、時にはそれだけで効果的となる。

 脊椎の過剰な弯曲(前方への屈曲)により、組織が外側に移動している場合は、組織を内側に引っ張る。

 反対に内側に移動しているなら、棘突起から遠ざけるように引っ張る。

引用ここまで

脊柱屈曲時、脊柱起立筋の筋膜が棘突起から遠ざかる。
脊柱伸展時、脊柱起立筋の筋膜が棘突起に向かって近づく。

 手技療法家にはよく知られていることですが、背中が丸まっている人は上腹部をほぐし、背中が反っている人は背部をほぐします。上図の矢印の逆方向になります。

 腰部がわかりやすいと思いますが、腰が丸まっている人の腰椎の棘突起は脊柱起立筋から飛び出していますし、腰が反っている人の腰椎の棘突起は、脊柱起立筋の中に埋まって、めり込んでいます。

 猫背+反り腰では、こうなっています。
猫背+反り腰

 まれに、背中が反りすぎ、腰が丸まりすぎて、脊柱の生理的弯曲を失っている人を見かけます。下手なバレエダンサーなど、無理やり脊柱を真っ直ぐにしようとする人によく起きている問題です。

平背(フラットバック)

 これが理解できていると、手技療法はもちろん、運動指導も円滑に進むようになります。特に、ヨガにおけるキャット&カウポーズやピラティスにおけるキャット&リバースキャットなどの脊柱の動きのエクササイズにおいて、卓越した効果を得ることができます。

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脊柱の側屈歪みと回旋歪みの矯正。

  ファッシャルリリーステクニック (医道の日本社)218-219Pより引用します。

脊椎の側屈

 脊椎が一方向に側屈している場合には、側屈している側の脊柱起立筋が短くなる(または、短縮によって側屈が起こる)。

 中部胸椎の右脊柱起立筋が短く、脊椎から離れていることがわかるだろう。それゆえに、左脊柱起立筋は長く、脊椎に近くなっている。

 このようなパターンを修正するには、組織の関係を逆転させて、筋膜のつながりを矯正しなければならない。そのために、外側の組織を内側に引っ張り、内側の組織を外側に引っ張る。

脊椎の回旋

 脊椎の各部位は、脊椎関節の性質に応じて、さまざまな回旋する能力を持っている。

 我々は単に軟部組織を脊柱のテンセグリティーの中での伸縮素材として使い、骨間のかんけいを和らげ、負荷を低減しているのである。

 脊柱の回旋は深層筋によって保持される。背中の板のように配置されている組織の最深層である。これらの短い斜筋は棘突起を、1つ下の椎骨の横突起に向かって引っ張り、脊椎を反対側に引っ張る傾向がある。

多裂筋の短縮

 上部腰椎から発生し、第7・8胸椎周辺がピークとなって、徐々に元に戻っている。つまり分節は第1・2腰椎から第7・8胸椎の間では右回旋しているが、自然に修正しているために、第7・8胸椎と第2・3胸椎の間では、右回旋している。

 第1腰椎の棘突起は、2~4分節下の椎骨の横突起につながっている。そのため、これらの支え綱を矯正するためのストロークは、回旋が発生している部位から、4分節下の部位で行わなければいけない。

 代償作用として反対への回旋が発生している部位までストロークを続ける。この部位は2つの椎骨がそれぞれ正反対に回旋している場所である。右回旋を矯正する最後のストロークでは、左から第7胸椎にアプローチする。その後で、代償作用の左への回転を矯正するために、4分節下から第6胸椎にアプローチする。

引用ここまで

 抜粋して引用したため、少しわかりにくくなってしまいました。深く理解したい方は、医道の日本社のファッシャルリリーステクニックをお求めください。手技療法家向けの内容ですが、機能運動指導者の指導力を爆上げできる内容となっております。

 当然のことですが、歪んだ脊柱では機能的な動きはできません。筋実質部の伸展性低下と筋膜の繊維化(硬くなる)によって、筋が伸びにくくなって抵抗性が増してしまうことで、他の伸びやすい部位が障害されてしまうためです。筋の伸張性低下と筋膜の線維化によって生じる筋短縮には、圧迫とストレッチングが有効です。

 筋攣縮(れんしゅく)=muscle spasmは、痙攣(無意識に力が入り常に緊張状態にあること)と虚血(筋肉の中の血管が締めつけられ血液の流れが滞っている状態)が起きている状態です。自分でコントロールができないレベルで機能が崩壊しているので、悪循環を繰り返して筋力低下を起こすことになります。リラクゼーションが有効ですが、筋攣縮を起こしている人には特徴的な認知の歪みがあるため、難度が高くなりがちです。

 筋攣縮は筋が痙攣している状態であり、血管の痙攣も伴っている場合がことがほとんどです。関節の周辺組織が侵害刺激を受けることで侵害受容器が反応してしまい、その信号が脊髄内に伝えられます。脊髄反射によって前角細胞のα運動線維に作用し、筋が攣縮を引き起こします。筋肉が無意識下で持続的に筋緊張が亢進した状態であり、筋緊張が亢進して筋の内圧が高くなるため、圧痛を有するのが特徴です。

 長時間、緊張状態に陥ることで、一部の筋線維の筋紡錘が過剰反応して暴走し、部分的に筋肉が縮まった状態になります(部分的過剰収縮)。いわゆる「ひきつれた状態」であり、なんらかの動作でその筋肉全体が収縮するとき、過剰収縮状態にある筋線維にはさらに力が加わります。「これ以上縮むと引きちぎれる」という状態になることで、痛みが生じます。動くと痛いのに加え、筋が正常に収縮できないことで動作制限も生じます。

 一部の筋線に痛みが生じることで、その周囲の筋群には負荷がかからないように力が入ります(リキミ)。結果的に、全体的に筋肉が張ったような状態となっていきます。筋がひきつれた状態では、無駄なリキミが連続的に発生し、筋肉が部分的に固くなります。

 引用文をもう一度読んでみてください。筋短縮と筋攣縮の知識があると、まるで違った内容に感じるはずです。理解できると、脊柱の側屈歪みと回旋歪みを矯正できるはずです。

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2023年2月17日金曜日

自分に欠点、または解消の必要がある問題点があるということを、はっきりと認識していなければならない。新しい改善された動き方に変えるためには、「間違っている」と感じることが必要です。

 

環椎後頭関節(頭と脊椎の関節)

 アレクサンダー・テクニーク完全読本 医道の日本社 より引用します。

 すべての人は正しくありたいと願う

しかし、誰も「自分が正しいと考えていること」が、

本当に正しいのかどうかを考えようとしない。

   フレデリック・マサイアス・アレクサンダー

 固有感覚(体の部位の相対的な位置の感覚)と筋感覚(動作の感覚)は誤りやすく、実際に、自分が空間のどこにいて、何をしているかに関して、間違った情報を与えている場合があるといういことです。

 私たちの多くは誤りやすい感覚のメカニズムのせいで、「自分が何をしているのか」がわからなくなりやすいのです。後ろに傾く状態で立っていても、「真っすぐに立っている」と感じていたりするのです。

 第1に、自分に欠点、または解消の必要がある問題点があるということを、生徒ははっきりと認識していなければならないでしょう。

 第2に、教師はその問題点を明確にして、それを是正する手段を決めなければなりません

 生徒は、自分の肉体的な動作についてメンタル面で混乱していること、つまり自己の感覚評価、または筋感覚が不完全であることを認めることになるでしょう。別な表現で言えば、日常の単純な行為を達成するために必要な筋緊張程度の感覚ですら、誤っていて、有害だったりすることに気づくでしょう。

 そして、生徒が「リラックス」や「集中」といった状態にしようと思っても、この感覚的な誤りのせいで、実現不可能になってしまうのです。63P

 このアレクサンダーの言葉をシンプルにすると、「私たちが実際にしていることと、私たちが『している』と考えていることは、まったく異なる」ということです。64P

 固有感覚と運動感覚はともに筋組織からのフィードバックを基にしているため、過剰な筋緊張はどちらか一方、または両方の感覚を妨げる可能性があります。これが、フィードバックによって伝えられた情報を歪ませてしまうのです。

 私たちの多くが過剰な緊張で体を支えてしまい、強く収縮した筋が関節や筋の受容器で受信した感覚の情報を妨害してしまうことが、私たちが「誤りやすい感覚評価」を起こしてしまう理由だと考えられます。65P

 「自分のやっていることを信じる傾向」はとても根深いものです。多くの人が起きている間のほとんどをバランスが崩れた状態で過ごしているため、筋は絶えず緊張しているのです。

 新しい改善された動き方に変えるためには、「間違っている」と感じることが必要です

 正しいことをすることは、私たちが最も避けたいことである。なぜなら、私たちが「正しいことをしよう」と考えること自体が、邪魔するからだ。すべての人は正しくありたいと願うが、誰も「自分が正しいと考えていること」が、本当に正しいのかどうかを考えようとはしない。

 人が間違ったとき、それはその人にとって「正しいこと」が間違っていたことを意味します。このために、問題は複雑になります。誰もが、自分にとって違和感のない方法で動き、座ったり、立ったりするでしょう。「何かおかしい」と感じる方法で動くことが、実は本来のやるべきことであるとは、夢にも思わないでしょう。66P

引用ここまで

胸鎖関節(腕の付け根)

 「何が間違ってますか?」

 「出だしから全部、間違ってますよ」

……多くの人は、「自分は部分的に間違っているだけだ」と考えています。しかし現実は、最初の段階から間違っていることがほとんどです。人間の身体には「間違っていてもなんとか誤魔化して動かせる機能」が備わっているために、このような混乱が起きがちなのです。

 姿勢・呼吸・動作の改善の指導をしている人たちが直面する問題は、「間違っている人ほど、自分は正しいと信じ込んでいる」ということだと思います。指導に従わず、持論を展開するのですが、いま現在の自身の身体のバランスが崩れている時点で何の説得力もありません。自身に問題があるという自覚がほとんどないため、うまくいかないのは周りのせいだと感じています。

 認知の歪み(cognitive distortion)とは、誇張的で非合理的な思考パターン(irrational thought pattern)を指す言葉です。これらは精神病理状態を永続化させうるとされており、デビッド・D・バーンズ先生によって、以下の10パターンにまとめられています。

■全か無かの思考。白黒思考(オール・オア・ナッシング)。
■行き過ぎた一般化。「いつも」「絶対」「すべて」「常に」「全く」「決して」
■心のフィルター。悪い部分しか見ない。
■マイナス思考。全て悪いほうへ考えてしまう。
■論理の飛躍。根拠もなく決めつける。
■拡大(過小)解釈。
■感情の理由づけ。自分の感情を根拠にものごとを決めつける。
■「~すべき」思考。
■レッテル貼り。「行き過ぎた過剰な一般化」が極端に行き過ぎている状態。
■誤った自己責任化(個人化)。ものごとや出来事に対して、理想像のようなものが必ず存在しているかのように考える。

 人には、『考え方の癖』があります。問題を引き起こす状況になった際に、偏った固定観念が影響し、破滅的な自動思考が浮かんでしまうと、その後の行動も破滅的なものになっていきます。視野が狭い、自分だけの偏った考えにとらわれている人の姿勢を観察してみると、潰れているのがよくわかると思います。

 楽観的にもなりすぎず、かといって悲観的になりすぎず、地に足のついた現実的でしなやかな考え方をして、いま現在の問題に対処していくことが大切であり、そのためには姿勢の改善に取り組むのが合理的です。それに加え、偏った自動思考に焦点をあてて、その根拠と反証を検証することによって認知の偏りを修正します。

 とはいえ、話はそんなに簡単ではなく、過剰緊張状態にある筋肉から発せられるノイズが常に思考に悪影響を与えるために、認知の偏りを修正するのは困難を極めます。

 さらに厄介なことに、認知の偏りを修正できないと、筋肉の過剰緊張状態を解除するのが難しくなります。

 自分に欠点、または解消の必要がある問題点があるということを、はっきりと認識していなければならない。新しい改善された動き方に変えるためには、「間違っている」と感じることが必要です。


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