ナショナルグラフィック「脳の謎」32Pより。
妊娠8ヶ月ほどを経た胎児の脳は、重さ約0.45kgと、成人の3分の1程度しかないが、ニューロンの数は2倍に達する。もっとも、脳にはすべての神経接続で生じる生化学反応を維持するほどの能力はないので、いちばん弱いニューロンから先に死んでいく。胎児の発達の最終段階で、すべてのニューロンのおよそ半分が死ぬ計算になる。
母親の胎内から産み落とされるとともに、脳の発達はさらに進み、新しい経験……
光景、音、におい、行動、感情……に対する反応を処理できるようになってゆく。さまざまな環境刺激によって強まる神経接続もあれば、逆に衰え、廃れてしまう神経接続もある。ニューロンのネットワークは互いに生存をかけて競い合っているといっても過言ではない。
引用ここまで
現在の自分の考え方というものは、これまでの人生において生き残ってきた神経接続の結果なのだと、私は考えております。おかしな考え方をしてしまうのは、おかしな考え方をする神経接続が生き残ってきたからだと推測しています。
ついでに言えば、41Pの「偽りの記憶をこしらえてしまうことは健常者でも珍しくない。人間の記憶は実際にしてきたことの総和であるばかりではなく、これまで考えてきたこと、今現在信じていることの総和である(ロフタス)」ということでもあります。
これはある意味恐ろしいことで、実際にしてきたことと考えてきたこと・信じていることで、これからの人生を決めていく記憶がつくられ、それを元に行動していくわけで、おかしな人はますますおかしくなっていくということになります。
これはつまり、これまで「正しい運動をしてこなかった人ほど、間違った運動を正しいと感じる神経接続を生き残らせてしまっている」ということです。それゆえに、感覚も含め、新しく正しい運動をするための神経接続をつくっていくのは困難を極めてしまいます。一方、すでに正しい運動をする神経接続をつくっている人は、さまざまなパターンの運動を次々にマスターしていけます。差はひろがるばかりなのです。
「相手の動きを脳内でコピーする神経接続」がつくれていない人は、「相手の感情を理解することができない」という事態に陥ってしまいます。ミラーニューロンは運動神経であり、正しい運動ができないということは、空気を読むことができないということでもあります。
舞の世界では、「役を舞う」というのが基本となります。自分以外の何者かになりきって動くことで、その役の視座をもつことができるということです。この理由で、人生がうまくいっていない人が舞を始めると、いろんなことがうまくいくようになりやすいのです。原則として、やりたい役ではなく「いまの自分に欠けている役」を舞わねばなりません。
正しく動けない状態で選ぶセミナーやセッションは、だいたいハズレです。正しく動けない状態のときに熱狂してしまうような対象は、だいたい有害無益です。認知的不協和がはたらいてしまうので、「すべて意味がある」とか「すべて喜び」とか「すべてに感謝」とかやらかしがちですが、それこそこれまでに生き残ってきた神経接続が生み出した幻想でしかないのです。
正しい運動ができるようになるには、正しい運動を繰り返す必要があります。それは、これまで間違った運動をしてきた人にとっては、気に入らない感覚だったりします。神経接続を変えるのを、神経そのものが拒絶するのではないかと推測しています。
これは、正しい運動を教えている講座が注目されず、間違ったを教えている講座ほど注目されやすいことにつながっているような気がします。つまり、間違った運動をする神経接続が、新たに正しい運動をする神経接続をつくるのを妨害しているという仮説です。神経接続の生存競争で、間違った運動をする神経接続が勝ち続けた結果が、本体の破壊ということなのではないかと思います。
このあたりのお話を、今年の残りの講座でしていこうと考えております。